感染症:コウモリの間で感染が広がっているコロナウイルスのSARSに類似した集団はヒトにも感染する可能性を持つ
Nature Medicine 21, 12 doi: 10.1038/nm.3985
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)と中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)の出現は、ウイルスの異種間伝播がヒトでの大流行につながるという脅威を明確に示している。本論文では、SARS類似ウイルスの1つで、キクガシラコウモリ科のChinese horseshoe bat個体群で現在感染が広がっているSHC014-CoVについて、病原体としての特性を検証した。我々はSARS-CoVに対して逆遺伝学の手法を用い、マウスに馴化したSARS-CoVを骨格としてコウモリコロナウイルスSHCO14のスパイクを発現するキメラウイルスを作製し、その性質を調べた。その結果から、野生型SARS-CoV骨格中にSHC014スパイクをコードしているグループ2bのウイルスが、SARS受容体であるヒトアンギオテンシン変換酵素Ⅱ(ACE2)の複数のオルソログを効率的に利用することができ、ヒトの初代培養気管系細胞で効率よく複製を行い、SARS-CoVの流行性株と同等のin vitro力価を示すことが分かった。さらに行われたin vivo実験で、このキメラウイルスがマウス肺で複製し、注目すべき病原性が見られることが示された。現在使用可能な、SARSに基づいた免疫治療薬および予防方法の評価を行い、これらの有効性が低いことが明らかになった。モノクローナル抗体およびワクチンを用いた方法はどちらも、新規のスパイクタンパク質によるCoV感染を中和・防止することができなかった。これらの知見をもとに、感染性を持つ完全長SHC014組換えウイルスを人工的に構築し、これがin vitroおよびin vivoで ロバストな複製を行うことを示した。今回の結果は、コウモリ個体群で現在流行中のウイルスからSARS-CoVが再出現するというリスクが存在する可能性を示している。