Editorial

今こそ研究を花開かせよう

Nature Medicine 21, 6 doi: 10.1038/nm.3879

財政危機にあるギリシャ政府は最近、国外の債権者への支払いのために、大学に対して研究予算の一部返還を要請した。また、欧州委員会は科学研究費の戦略的投資基金への転用を計画しており、欧州では研究助成金を他の目的に転用する例が増えつつある。米国での事態はこれほど緊急なものではないが、NIHの予算は2003年以来ほぼ横ばい状態である。だが、財政的見通しのこのような暗さにもかかわらず、生物医学関連の研究は非常な勢いで進展しつつある。例えば、ゲノム編集技術の進歩によって、基礎・前臨床研究の成果は臨床試験に進みつつある。また再生医学分野では、多能性幹細胞を使って多様な種類の細胞が作出されるようになって、これらを使う薬剤スクリーニングなどの研究や、加齢に関連する変性疾患の治療などが目覚ましい成果をあげている。一方、マウスを使い数十年にわたって行われてきた免疫応答研究は、ついにがんの免疫療法として展開されるようになった。基礎的な生物医学研究の助成が、臨床研究に大きな利益を生み出していることは明白である。医学研究は、寄付金や製薬企業からも資金が助成されている。しかし、トランスレーショナル研究であるかどうかが判然としない計画や非常に大規模な研究計画には、これらが投入される見込みは少ない。こうした研究に公的な研究助成は不可欠である。研究への資本投下が医療費を低減するという経済的考察も踏まえ、ドイツや米国ではこうした公的助成金削減の動きを懸念して新法を制定し研究費を増額しようという動きも出てきているが、いずれも実現には至っていない。財政問題への近視眼的な懸念から、新しい発見のチャンスを失うようなことはあってはならない。今こそ、科学研究が進展し続けるのに必要とする資金を投入し、新しい技術や治療法の成功を資産として利用すべきときなのである。

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