アテローム性動脈硬化症:アデノシンをイノシンに替えるRNA編集は、HuRを介した転写後調節を可能にすることでアテローム性動脈硬化におけるカテプシンS発現を制御する
Nature Medicine 22, 10 doi: 10.1038/nm.4172
アデノシンをイノシン(A-to-I)に替えるRNA編集は、ADAR(adenosine deaminase acting on RNA)酵素ファミリーによって触媒され、RNA代謝のエピトランスクリプトーム調節に重要である。しかし、血管疾患におけるA-to-I RNA編集の役割については不明である。本研究では、血管形成やアテローム性動脈硬化に関連するシステインプロテアーゼをコードするカテプシンS mRNA(CTSS)が、ヒト内皮細胞で高度に編集を受けていることを示す。CTSS転写産物の3'非翻訳領域(3'UTR)は、AluJo領域とAluSx+領域という2つの逆方向反復配列を含み、これらは長いステムループ構造を形成し、これが編集の基質としてADAR1により認識される。RNA編集によって、mRNA安定化に関わるRNA結合タンパク質のHuR(human antigen R、ELAVL1にコードされる)がCTSS転写産物の3'UTRへ誘導され、これによってCTSSmRNAの安定性と発現を制御できるようになる。内皮細胞でADAR1を過剰発現させたり、細胞を低酸素状態にする、あるいは炎症性サイトカインのインターフェロンγや腫瘍壊死因子α(TNF-α)を投与すると、CTSSのRNA編集が誘導され、その結果、カテプシンS発現が増加する。ADAR1のレベルやCTSSRNA編集の程度は、無症状のアテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、大動脈瘤および進行性の頸動脈アテローム性動脈硬化症などのアテローム性動脈硬化症患者で、カテプシンSレベルの変化と関連していた。これらの結果は、ヒトのアテローム性血管疾患での遺伝子発現にRNA編集が果たす、これまで知られていなかった役割を明らかにしている。