がん:RNF43変異型膵腫瘍のWnt–FZD5シグナル伝達回路がドラッガブルな脆弱性であることが、ゲノム全体にわたるCRISPRスクリーニングによって示された
Nature Medicine 23, 1 doi: 10.1038/nm.4219
CRISPR–Cas9ゲノム編集法を用いる順遺伝学的スクリーニングでは、がん細胞の遺伝的脆弱性を高分解能で検出することができる。我々は、Wntシグナル伝達に依存して増殖するRNF43変異膵管腺がん(PDAC)細胞で、ゲノム全体にわたるCRISPR–Cas9スクリーニングを行った。このスクリーニングから、Wntシグナル伝達回路がFZD5という因子に独自の必要性を示すことが分かった。FZD5は、ヒトゲノムにコードされている10のFrizzled受容体の1つである。今回の結果は、Wnt受容体レベルでは状況依存的な特異性が正当に評価されていないことを明らかにしている。さらに9つのFZDタンパク質の発現を知らせる一連の組換え抗体を得て、FZD5の機能特異性はタンパク質発現パターンでは説明できないことを確認した。また、FZD5およびFZD8に特異的に結合する抗体は、in vitroで増殖させたRNF43変異型PDAC細胞と、in vivoで異種移植片として成長させたRNF43変異型PDAC細胞の増殖を強く阻害した。この結果は、遺伝学的に観察された機能特異性に対するまた別の裏付けとなる。RNF43バリアントを持つ患者由来PDAC細胞株の増殖も、FZD5抗体によって選択的に阻害され、FZD5が標的療法に使える可能性が実証された。さらに、大腸がん患者由来でRNF43変異を持つ腫瘍オルガノイド培養もFZD5抗体に感受性を示し、上記の知見がPDACについてだけのものではなく、一般化できる可能性がはっきりした。今回の結果は、CRISPRを使う遺伝的スクリーニングが、抗体の開発とその治療への使用を目的として行う細胞表面標的分子の探索と検証を推進する可能性を明らかにしている。