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認知障害:海馬カルビンディン-D28kのΔFosBによるエピジェネティックな抑制は発作に関連した認知障害を引き起こす
Nature Medicine 23, 11 doi: 10.1038/nm.4413
カルシウム結合タンパク質のカルビンディン-D28kは海馬機能や認知に必須だが、てんかん様活動や発作を伴うさまざまな神経疾患ではその発現が顕著に低下している。共に反復発作を伴うアルツハイマー病(AD)とてんかんでは、認知障害の重症度は海馬歯状回(DG)のカルビンディンの減少度を反映している。しかし、カルビンディンは神経の生理学的また病理学的性質の両方に重要であるにもかかわらず、海馬でのその発現を制御する調節機構はほとんど解明されていない。今回我々は、発作が海馬でのカルビンディン発現を慢性的に抑制し、認知を障害する際に働くエピジェネティックな機構について報告する。ΔFosBは非常に安定な転写因子で、ADや発作のマウスモデルでは海馬で誘導され、そこでカルビンディン遺伝子(Calb1)のプロモーターに結合してヒストン脱アセチル化を開始させ、それによってCalb1の転写を低下させることが分かった。ウイルスを介する直接的なカルビンディン発現、あるいはΔFosBシグナル伝達の阻害によってDGでのカルビンディンレベルを上昇させると、ADのマウスモデルで空間的記憶が改善された。さらに、ΔFosBおよびカルビンディンの発現レベルは、側頭葉てんかん(TLE)あるいはAD患者のDGで逆相関しており、ミニメンタルステート検査(精神状態短時間検査;MMSE)での評価と相関していた。我々は、ΔFosBによるカルビンディンの慢性的抑制は、反復発作を伴う疾患で間欠的な発作が持続性認知障害を引き起こす機構の1つだと考えている。