Editorial

優先すべきはスピードよりも科学

Nature Medicine 23, 4 doi: 10.1038/nm.4325

トランプ米大統領はFDAに新薬承認の迅速化を求めているが、実は審査にかかる時間はこの20年で大幅に短縮されている。1993年には19か月を要したものが、2015年には11か月となっているのである。これは世界各国の規制機関の中でも2番目の速さである。だが、その一方で、安全性や効果の評価にかける時間の短縮、あるいは利害関係者の数の縮小といったことの危険性もすでに明らかになりつつある。例えば、認可までの時間の短縮が、認可取り下げ申請数と認可後のブラックボックス警告の増加につながることが、少なくとも1つの研究で実証された。製薬企業の多くも認可過程をスピードアップすべきだとは考えていない。彼らも審査の加速によって審査の質が低下し、ひいては保険業者の新薬に対する補償が得られにくくなることを懸念している。新薬が市場に登場するまでの過程でボトルネックとなっているのは実は認可の過程ではなく、創薬と開発計画なのである。化合物が発見されてからそれが製品化されるまでには10年から15年かかるというのが一般的な見方であり、臨床試験が成功して製品化される成功率は12%以下という数字も出ている。スピードアップすべきは臨床試験に入る以前の研究なのである。しかしホワイトハウスの予算案は、NIHの研究助成のほぼ20%にあたる60億ドルを削減しようとしている。FDAの規制緩和を求める現政権は、創薬研究のスタートが基礎科学、つまり主にNIHの研究助成に依存している研究分野であることを考えなくてはいけない。このような予算削減は革新的研究を妨げ、それが結局は患者が求める新しい選択肢を減らすことになるのだ。新薬の市場への登場を加速したいなら、審査過程を安易に変更するよりも、認可に至るかどうかを左右する基礎科学への助成を増やすほうが効果はずっと大きいのである。

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