Letter

睡眠:睡眠不足による覚醒レベルの低下はマウスで痛覚感受性を上昇させる

Nature Medicine 23, 6 doi: 10.1038/nm.4329

不眠症などの睡眠障害の有病率が高いことからも分かるように、睡眠が不足している人々の数はさらに増加中で、その一因は昼間と夜の活動時間が長くなっていることである。慢性的な睡眠不足の健康への影響がどのようなものかは明らかになっていない。健康な被験者では睡眠の質と持続時間から翌日の疼痛の存在が予測でき、睡眠障害がそれだけで疼痛を悪化させる可能性が示唆されていて、この結果はヒトでの断眠の実験からも裏付けられている。今回我々は、健康なマウスでは睡眠不足によって侵害刺激(以後「疼痛」と表す)への感受性が上昇するが、睡眠断片化はこうした感受性を上昇させないこと、またこの上昇には一般的な感覚の過剰応答は伴わないことを実証した。中程度の睡眠不足が連日繰り返されると、睡眠負債の連続的な蓄積につながり、疼痛応答も異常に拡大するが、これらは共に、正常な睡眠が回復すると元の状態に戻った。安静状態のマウスに鎮痛作用を示さない覚醒促進物質であるカフェインとモダフィニルは、断眠マウスの疼痛感受性を迅速に正常化するが、睡眠負債には影響を及ぼすことがない。睡眠不足が誘発する軽度の疼痛が覚醒促進物質によって回復することは、痛覚感受性のレベル設定に関わるという予想外の役割を覚醒状態が持つことを明らかにしている。臨床的には、不十分な睡眠あるいは低質の睡眠は疼痛を悪化させる可能性があり、睡眠不足によって増強された疼痛は、有効性が低下している鎮痛剤によってではなく、覚醒状態の強化あるいは睡眠の質の改善によって軽減できる可能性がある。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度