Editorial

ビッグデータを活用して精神医学研究に突破口を

Nature Medicine 24, 1 doi: 10.1038/nm.4471

精神疾患は、世界的に深刻な疾病負荷となっている。しかし、精神疾患の管理法や治療法については、実際のところ、全く進展がないに等しい状態が続いている。治療薬については、1950年代から60年代にかけてのリチウム、抗うつ薬や抗精神病薬の発見以降、新しい分子標的はほとんど見つかっていない。2017年12月に開催された米国神経精神薬理学会の年会で広く論じられたように、精神医学は大規模な刷新を必要としている。
 現在の精神医学研究の停滞は、疾患の病態生理がほとんど理解されていないことに起因している。この分野では長い間、あらゆる医学分野で診断と治療の指標となる、定量的で客観的な表現型というものがあまり使われず、症状の観察に依存していた。精神医学研究を進歩させるには、遺伝子から分子、細胞、さらに脳内の神経回路、行動にわたって、生物学に基づく測定データが必要である。最近の技術的進歩によって、ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボロームなどの多様な分子データや、MRIやPETといった画像データが迅速に得られるようになり、その処理の速度は向上し、コストの方は低下しつつある。主に基礎科学研究者の共同研究から得られる、こうした高品質の大量のデータに加えて、臨床では電子記録の採用により膨大な患者データが得られている。一方、スマートフォンやウエアラブルデバイスの普及で患者の生理や環境についての連続的データも容易に得られるようになった。つまり、患者周辺の生物学的、行動的、社会的また環境的因子を包括的に知ることが可能になっているのである。
 臨床試験の膨大な患者データを使って抗うつ薬への患者の応答を予測できた実例もすでに存在している。だが、こうした大規模データには、相関関係の解釈に独特の難しさがあり、結果は多方面から慎重かつ厳密に評価しなくてはならず、それに加えてデータ共有や被験者のプライバシーに関する問題も絡んでくることが多い。  ビッグデータプロジェクトの成功には、研究者、データサイエンティスト、臨床家、技師、患者など、関係者間の緊密な協力が必要であり、従来の専門分野間にあった障壁を取り崩すことが欠かせない。それができて初めて、我々は、非常に多くの人々を苦しめている精神疾患を理解し、治療法をより良いものにするという共通の目標に到達でき、このような悲惨な疾患を防止するための新しい道を開くことが可能になるのだ。

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