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神経科学:ヒストンデアセチラーゼ3に依存する経路は末梢性ミエリンの発達と機能再生の範囲を定める

Nature Medicine 24, 3 doi: 10.1038/nm.4483

シュワン細胞が関わる再ミエリン化の不全は神経損傷後の機能回復を障害し、末梢の神経障害の一因になる。再ミエリン化の阻害を仲介する機構は、まだ明らかになっていない。今回我々は、エピジェネティックな調整因子を対象とする小分子スクリーニングにより、ヒストンデアセチラーゼ3(HDAC3:ヒストン修飾酵素)が、末梢でのミエリン形成の強力な阻害因子であることを見いだした。末梢神経損傷を受けたマウスでは、HDAC3を阻害するとミエリンの発達と再生が増進され、機能回復が改善された。HDAC3はミエリン形成性のニューレグリン–PI3K–AKTシグナル伝達軸に対して拮抗的に働く。さらに、ゲノム規模でのプロファイリング解析によって、HDAC3がエピジェネティックなサイレンシングを介してミエリン化促進プログラムを抑制し、その一方でp300ヒストンアセチルトランスフェラーゼと協働して、HIPPOシグナル伝達のエフェクターTEAD4などのミエリン形成阻害プログラムを活性化し、ミエリンの発達を阻害することが分かった。マウスでシュワン細胞特異的にHdac3あるいはTead4を欠失させると、坐骨神経でミエリンの厚みが増加した。従って、今回の知見は、HDAC3–TEAD4ネットワークが、ミエリン形成シグナルに対抗して末梢のミエリン恒常性を維持する細胞内因性阻害装置の二重の機能を持つスイッチであることを明らかにし、一過的なHDAC3阻害が末梢のミエリン修復の改善に使える可能性を示している。

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