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うつ病:ELK-1シグナル伝達を標的とすることによる抗うつ効果
Nature Medicine 24, 5 doi: 10.1038/s41591-018-0011-0
うつ病は深刻な影響を及ぼす精神疾患で、世界中で就業不能の主要な原因となっている。現在使われている抗うつ剤はうつ病に特有の症状に対するものだが、改善すべき部分は多い。これを考えると、シナプス可塑性や細胞のレジリアンスを支配するシグナル伝達経路を標的とするような、従来の抗うつ剤を超えた機能を持つ新規化合物の必要性は非常に高いと言える。ERK(extracellular signal-regulated kinase)経路は気分の調節に関与するが、その多面的な機能と標的としての特異性の欠如が最適な薬剤の開発を妨げている。我々は今回、ERKの下流のパートナー分子である転写因子ELK-1が、うつ病の病態生理や治療においてERKとは無関係に標的にできる特異的なシグナル伝達モジュールであることを突き止めた。ELK1 mRNAは、うつ病の自殺者から得られた死後海馬組織で発現が上昇しており、うつ病患者由来の血液試料で見ると、ELK1の発現を低下させられなかったことが、治療への抵抗性と結び付けられた。マウスでは、海馬のELK-1過剰発現自体がうつ行動を引き起こし、逆にELK-1活性化を選択的に阻害することで、ストレスによって生じるうつ病に似た分子状態や可塑性、行動状態が防止された。我々の研究は、シグナル伝達を基盤とする抗うつ剤の探索を成功させるには標的選択性が重要であることを強調するもので、ELK-1がERK下流のうつ病関連シグナル伝達分子であることを明らかにし、またELK-1がドラッガブルであることを実証する証拠を提示している。