がん治療:がん治療のために遺伝子エンハンサーでのポリコームとCOMPASSの機能のエピジェネティックなバランスをリセットする
Nature Medicine 24, 6 doi: 10.1038/s41591-018-0034-6
COMPASS複合体のサブユニットであるリシンメチルトランスフェラーゼKMT2C(別名MLL3)は、遺伝子エンハンサーでヒストンH3リシン4(H3K4)のモノメチル化を行う。KMT2C(以後MLL3とする)は、多様なタイプのヒト腫瘍で点変異を生じていることが多いが、このような変異がMLL3機能を変化させて、腫瘍発生に影響を与える仕組みの詳細は分かっていない。今回我々は、MLL3のPHD(plant homeodomain)リピートをコードする領域内にあるがん変異ホットスポットについて報告し、この領域がヒストンH2A脱ユビキチン化酵素で腫瘍抑制因子であるBAP1とMLL3との結合を仲介することを示す。MLL3 PHDリピートをコードする塩基配列に生じたがん関連変異は、MLL3とBAP1の相互作用を妨げ、低い患者生存率と相関している。PHD関連MLL3変異を持つがん細胞、あるいはBAP1を欠失したがん細胞では、MLL3やH3K27デメチラーゼKDM6A(別名UTX)の遺伝子エンハンサーへの誘導が低下していた。その結果、BAP1あるいはMLL3に変異を持つ腫瘍細胞では、ポリコーム抑制複合体2(PRC2)のH3K27メチルトランスフェラーゼ活性を阻害すると、正常な遺伝子発現パターンが回復し、in vivoでの細胞増殖が抑制された。本研究は、MLL3中のPHDに関連付けられる変異の発がん機構に関する手掛かりを示しており、ポリコームとCOMPASSの活性のバランス状態を回復させることが、これらのエピジェネティック因子をコードする遺伝子に変異を持つ腫瘍で有効な治療となる可能性を示唆している。