将来性と倫理
Nature Medicine 24, 6 doi: 10.1038/s41591-018-0072-0
生殖補助医療の需要の増大に伴い、ヒトの生殖の基本を細胞レベルで研究する必要性はかつてないほど大きくなり、研究を可能にする技術もまた進歩している。こうした重大な時に当たって、Nature Medicineは他のNatureタイトル誌と共に、増加しつつある生殖関連分野の論文についての従来の倫理指針を改訂する。 胚性幹細胞(ESC)が持つ驚異的な将来性は、それから作られた生殖細胞や接合子とともに、生殖医療の分野で目覚ましい進歩を可能にしてきた。このような成果は哺乳類の発生の最初期についての解明を大きく進めただけでなく、補助生殖医療技術(ART)にも画期的な進歩をもたらした。
国際幹細胞学会(ISSCR)は、6月20日からメルボルンで開催される今年の年会で、幹細胞を用いるさまざまな研究、つまりヒトの卵子や精子、胚を研究対象として培養あるいは操作するという、何らかの形での制約を必要とする研究に対して、考察されなければならない複雑な倫理的問題も含めて、国際的に合意されたガイドラインを設定し、公表することを計画している。一方、最近のNature(Nature 557, 6, 2018)には、NatureをはじめとするNatureタイトル誌がヒト胚、配偶子、およびESCを用いた研究に関して、ISSCRの最新の勧告(http://www.isscr.org/membership/policy/2016-guidelines/guidelines-for-stem-cell-research-and-clinical-translation/)に従っている内部規定を正式のものとすることに合意したことが公表された。こうした方針と現行の規制に従って、Nature Medicineを含むNatureタイトル誌は、ヒト胚もしくはヒト胚様の構造を14日以上培養し続けるという、いわゆる14日ルールを無視した研究論文の掲載は差し控え、またヒト胚を扱う一部の論文(ヒト胚や卵細胞でゲノム操作を行っているものなど)についてはこれまで通り、従来のピアレビュー過程に沿って対応しながら、個別に倫理的な評価を行うという方針を堅持していくことを決めた。
体外受精により生まれた最初の「試験管ベビー」の40回目の誕生日を祝うことになる2018年は、生殖医学研究が倫理的枠組みを明確に把握した上で、責任を持って行われるようにするにはどうしたらいいか、また、基本的なヒト胚発生研究と、そのトランスレーショナルな応用や臨床での生殖医学の将来に何が待ち構えているのかを、改めて考察し直すのに適した時期だと考えられる。トランスレーショナル研究と臨床研究の両方を扱うNature Medicine編集部は、生殖医学の分野の技術的また概念的進歩に伴ってこうした倫理的基準も変化していくだろうことは認識しつつも、科学の進歩が倫理的な枠組みを外れることなくなされるように、我々に課された責任を全うしていく所存である。