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遺伝子治療:冷感による治療用タンパク質産生を調節するための完全にヒト由来の導入遺伝子スイッチ
Nature Medicine 25, 8 doi: 10.1038/s41591-019-0501-8
単純な合成遺伝子スイッチを用いて導入遺伝子の発現を安全に制御する機能は、遺伝子や細胞を用いる効率のよい治療に極めて重要である。本研究では、TRP(transient receptor potential)チャネルファミリーのメンバーであるヒトTRPメラスタチン8(hTRPM8)によって制御されるシグナル伝達経路が、導入遺伝子発現を制御するために使われた。ヒトTRPM8シグナル伝達は、無害な天然の冷却化合物であるメントール、もしくは低温環境(15〜18℃)への曝露によって促進される。hTRPM8によって誘導されるシグナル伝達を、活性化T細胞の核内因子に結合する領域を含む合成プロモーターと機能的に連結することにより、低温環境への曝露もしくはメントールのどちらかによって調節できるような合成遺伝子回路が設計された。この遺伝子スイッチは、多様な細胞タイプやヒト初代細胞に加えて、改変した細胞を移植したマウスでも機能できる。インスリンもしくは改変型タイプIIBアクチビン受容体リガンドトラップタンパク質(mActRIIBECD-hFc)という2つの治療用タンパク質のどちらかの発現と組み合わせた遺伝子回路を内包する細胞インプラントのマイクロカプセルは、メントールの経皮送達に応じて、アロキサン投与マウス(1型糖尿病のモデル)では高血糖の軽減、デキサメタゾン投与マウス(筋消耗のモデル)では筋萎縮の回復を引き起こすことができた。この完全にヒトに由来する直交性導入遺伝子スイッチは、広範囲にわたる臨床応用に適していると考えられる。