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医師の幇助による安楽死がもたらす新たな問題
Nature Medicine 26, 2 doi: 10.1038/s41591-019-0696-8
患者の意思による安楽死を合法とする国は多くない。「耐え難く回復の見込めない病状」の患者が致死性薬物の投与による安楽死を選択するのには、世界医師会(WMA)など多くの医師組織が強く反対しているが、現在さらなる倫理的難題が持ち上がっている。安楽死を望む患者の中に、治療研究に自らの組織を提供したいと希望する例が出てきているのである。進行した多発性硬化症(MS)患者数人が、安楽死後の脳サンプルを研究用に提供する意思表示をし、彼らの組織は死後1時間以内に採取された。MSの場合、サンプル採取までの時間は重要で、自宅での安楽死の場合などで待ち時間が長いと組織は劣化してしまい、MS脳病巣内の遺伝子やタンパク質の活性を調べることはほぼ不可能になる。新鮮な脳サンプルを使う研究ができれば、疾患解明の糸口が得られ、治療の向上にもつながる可能性がある。だが、こうしたサンプルの提供と採取に関する多くの問題の倫理的側面は極めて複雑であり、患者とその家族、さらには世界の医学界全体に関わっている。