Editorial

新型コロナウイルスSARS-CoV-2は、国際的な情報交換、協力と連携によってストップできる

Nature Medicine 26, 2 doi: 10.1038/s41591-020-0775-x

2019年12月31日、WHOは中国武漢市で原因不明の肺炎が集団発生したことに関して警告を発した。これは新型ウイルスによる疾患が大流行した場合に公衆衛生に及ぶ大きな影響を懸念して、国際的な関心を促すものだった。この当初の懸念が正しかったことはすぐに証明され、感染者は急増して世界で数万人を超え、死者は2000人を上回る事態となった。このウイルスの急速で世界的な広がりによって、国際的な協力による緊急な対応の必要性が、現在極めて大きくなっている。

中国の研究者たちは、現在SARS-CoV-2と呼ばれているこの新規ウイルスを患者から単離して、世界中の医療関係者からの依頼に応えて、その塩基配列を2020年1月10日に公表した。この迅速な対応は2002年のSARS大流行の際の経験を踏まえての政策転換によるところが大きい。塩基配列の公開は、世界中の研究者の力を結集してこのウイルスの封じ込めを計るのに欠かせない。また、過去20年間に起こったSARSとMERSというコロナウイルスによる疾患の大流行での経験によって開発された新しい研究手段、ワクチン作製や診断の方法、治療薬候補などは今回のウイルスに対して速やかに転用され、さらにジカウイルス、エボラウイルス出現の際の経験も取り込まれて、今回は迅速な封じ込めが可能になるのではないかと、当初は考えられていた。しかし、この記事を執筆している時点では流行が収まる気配はなく、実際の流行範囲や規模はまだ確定されていない。その理由は、単独で多数の感染者を発生させる「superspreader」の有無が不明なことや、SARS-CoV-2感染と診断されず、他の呼吸器疾患と誤認された症例の数が増える可能性が出てきたことなど、多数の不確定要因の存在だが、その多くは情報の公開や国際間の情報伝達が不十分なことによるものだ。また、ウイルスの毒性もまだ不明である。これは死亡者のほとんどが高齢者で合併症が存在していることが主な原因だが、病態や死亡の詳細についても情報が不足している。

公衆衛生対策は国境を越えるものだ。世界規模の拡大を懸念させる感染症の出現に直面して、各国は自国の国民だけでなく国際社会に対しても、情報と施行した措置を透明化する責任がある。情報の透明性は、疾患の爆発的流行の終息を速め、被害を最小限に食い止めるための国際的な協力を容易にし、促進するために欠かせない。SARS-CoV-2大流行に対する国際社会の当初の対応は、迅速な情報交換の持つ力と研究の維持・協力の重要性を明確に示した。こうした対応は将来の疾患大流行でも実行されるべきである。国際協力の保持は、今回のような難問の解決に必須なのだ。

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