がん悪液質: GDF15–GFRAL活性の抗体による阻害はマウスのがん性悪液質を改善する
Nature Medicine 26, 8 doi: 10.1038/s41591-020-0945-x
がん悪液質は非常に広く見られる状態であり、生活の質や生存率の低下と関連する。腫瘍によって引き起こされた内分泌、免疫や神経系の乱れは、食欲不振、脂肪組織や骨格筋での異化作用の変化を誘導し、これらはがん悪液質の特徴である。しかし、悪液質を促進する分子機構についてはほとんど分かっておらず、現在のところこの状態に対する承認薬はない。循環血中のGDF15(growth differentiation factor 15)の上昇は悪液質やがん患者の生存率低下と相関している。また、脳幹ニューロンにあってマウスではGDF15誘導性の体重減少を仲介するGFRAL(GDNF family receptor alpha like)–RET(Ret proto-oncogene)シグナル伝達複合体が、最近見つかっている。今回我々は、アンタゴニストとして働く治療用モノクローナル抗体3P10について報告する。この抗体はGFRALを標的とし、GDF15によって誘導される細胞表面上でのRETとGFRALの相互作用を妨害することにより、RETシグナル伝達を阻害する。3P10の投与は、担がんマウスでの過剰な脂質酸化を解消し、カロリー制限条件下でもがん悪液質を防ぐ。機構的には、GFRAL–RET経路の活性化が脂肪組織で脂質代謝に関わる遺伝子の発現を誘導し、化学的な末梢交感神経切除や脂肪トリグリセリドリパーゼの喪失はどちらも、マウスでGDF15誘導性の体重減少を起こりにくくする。これらのデータは、GDF15は食欲不振とは無関係に、末梢交感神経軸によって脂肪組織で脂肪分解応答を引き起こし、担がんマウスでの脂肪と筋肉の量および機能の低下の原因となることを明らかにしている。