小児脳腫瘍:メトホルミンを使ったパイロット臨床試験で観察された小児脳腫瘍経験者の認知機能回復と神経回復の評価
Nature Medicine 26, 8 doi: 10.1038/s41591-020-0985-2
今回我々は、内在性の神経前駆細胞(NPC)の薬理学的刺激が認知機能回復や脳修復を促進するかを、メトホルミンの影響に問題を絞り込んで、齧歯類とヒトの放射線傷害研究を並行して調べた。齧歯類の頭蓋放射線照射モデルでは、メトホルミンは歯状回のNPCの回復を増強し、神経発生と認知機能に性別に依存する影響を及ぼすことが分かった。さらに、頭蓋放射線治療を受けた小児脳腫瘍経験者を対象に、二重盲検プラセボ対照クロスオーバーパイロット試験(ClinicalTrials.gov, NCT02040376)を行い、安全性、実現可能性、認知機能試験、白質と海馬のMRI検査を評価項目とした。同意が得られた24人の参加者を、メトホルミン(A)とプラセボ(B)をそれぞれ12週間にわたって、ABあるいはBAのどちらかの順番で投与し、AとBの交代時に10週間のウォッシュアウト期間を挟むサイクルを完了するように無作為に割り付けた。安全性を監視するために採血が行われた。実現可能性は、症例集積率、服薬と投薬手順のアドヒアランスとして評価した。サイクル、順序、投薬の関数として認知機能およびMRIの結果を調べるためには、線形混合モデリングが用いられた。メトホルミンに関連する臨床的安全性についての懸念や重篤な有害事象は見られなかった。我々の線形混合モデルでは、全ての認知機能に対して順序の影響が観察された。サイクル1の完全なデータがある参加者のサブセットでは、陳述記憶検査とワーキングメモリー検査で、メトホルミンはプラセボよりも優れた成績と関連していた。メトホルミンの認知機能と脳構造に及ぼす影響を調べる臨床試験は、小児脳腫瘍の長期生存者で実行可能であり、メトホルミンはこの集団では安全に使用でき、耐容性があることの証拠が示された。このパイロット試験は、認知機能回復や脳の成長に対するメトホルミンの有効性を試験することを目的としたものではないが、予備的な結果は有望であり、大規模な多施設第3相臨床試験でさらに調査する価値があると思われる。