遺伝子治療には長期的な研究が必要である
Nature Medicine 27, 4 doi: 10.1038/s41591-021-01333-6
2021年2月16日、Bluebird Bioによる鎌形赤血球症治療のためのLentiGlobin遺伝子治療の第1/2相および第3相臨床試験は、5年間にわたって投与を受けた2人の患者ががんと診断された後に中断された。2018年後半には、同じ臨床試験の参加者が骨髄異形成症候群と診断されている。がんの原因はこの研究で使用されたレンチウイルスベクターではないらしいが、このニュースは遺伝子治療に伴う遅発型の有害事象について高まりつつある懸念をさらにはっきり示すことになった。
遺伝子治療の臨床での使用は急速に増えつつあり、米国FDAは2025年まで、年間10~20件程度の遺伝子治療が承認されると予測している。遺伝子治療の安全性についての懸念は新しいものではなく、以前から大々的に報道されてきた。1999年後半には、オルニチントランスカルバミナーゼ欠乏に対する遺伝子治療の初期の安全性試験の間に参加者が死亡したことで、この方法は放棄されている。しかし、米食品医薬品局(FDA)の生物製品評価研究センター(CBER)のセンター長であるPeter Marksは、今回の中止を以前の失敗例と比べることに対して強く警告し、「20年前に比べて遺伝子治療の研究は格段に進歩している。また、この分野での増加した研究数を考えれば、治療の安全性に関して報告されている懸念はわずかなものにすぎない。このような臨床試験は結果次第で、希少で衰弱性の疾患に苦しむ多くの患者にとって人生を全く変えるものとなるのだから、新規な治療法の進歩を妨げかねない時期尚早な結論には注意すべきだ」と論じている。
遺伝子治療のほとんどは、人体に対して永続的な、もしくは長期にわたる影響を達成するように設計されていて、このことが遅発性の悪影響を及ぼすリスクを本質的に増大させている。2020年、FDAは遺伝子治療産物の投与の後に見られる遅発性有害事象についてのデータを収集するための長期フォローアップ研究の設計に関するガイドラインを更新し、研究によっては最短でも15年間のフォローが必要だとしている。
どんな治療法の開発についても当てはまることだが、治療にはリスクと未解決の問題が常について回る。しかし、遺伝子治療を受ける患者にどういうことが起こり得るかを理解する適切な枠組みを作ることは、リスクを相殺するのに役立つのに加えて、遺伝子治療産物の長期間にわたる安全性をどのように改善すれば、ほとんどの患者が利益を受けられるようになるのか、それについての価値ある考察も得られるだろう。