Editorial

宇宙での科学研究は公開制に

Nature Medicine 27, 9 doi: 10.1038/s41591-021-01508-1

最近、民間人のみが搭乗した宇宙船の打ち上げが2回行われた。これらは1969年の月面着陸のような「偉大な飛躍」ではなかったが、宇宙飛行の新しい黄金時代の先駆けとなるものだ。

宇宙飛行は人類の最大の成果の1つであり、数学者や工学研究者だけでなく、さまざまな領域に属する次世代の研究者を触発する独特な可能性を持つ。現代の宇宙研究は以前とは違って学際的であり、生命科学や医学も含まれている。実際、宇宙飛行士には最近、医学もしくは科学のトレーニングを受けた研究者の割合が増えている。宇宙での医学研究には大まかに2つの目的があるとされ、1つは低い地球軌道内を人々が安全に旅行し、まず月に到達し、さらに火星までも行って戻って来られるようにすること、もう1つは地球の住民の健康を宇宙での発見によって改善することである。

宇宙旅行は、ヒトの複数の生物学的特徴に独特な影響を及ぼす。例えば、高年齢者によく見られる疾患で、筋量だけでなく身体機能の低下も起こるサルコペニアは、宇宙飛行士にも起こる。そのため、微小重力を使ってサルコペニアの筋管細胞モデルを作製できれば、まだ存在しないサルコペニア用治療薬のプレスクリーニングに使えると考えられるようになり、研究が進められている。これは、宇宙での研究が、宇宙で働く人々と地球上の住民の両方に利益をもたらす一例である。

しかし、今後最大の利益をもたらすのはおそらく、宇宙旅行者と宇宙飛行士の健康データを、彼らの同意を得て電子健康記録にし、一括したデータベースであろう。これに各国の宇宙科学の研究者がアクセスし解析できるようになれば、宇宙飛行の影響を解明してヒトの体への影響を軽減する上でのこのデータセットの価値は計り知れないものとなる。こうしたデータベースには多様性が欠かせないが、そのためには、それぞれ目的は異なっても、宇宙飛行を熱心に推進している各国、また民間企業の協力が必要となる。

宇宙での科学研究、医学研究は国際協力と結果公開の好例であり続けてきた。民間企業はこれから、技術革新やコスト削減に重要な役割を担うだろう。さまざまなデータの共有が行われなければ重要な科学的進展の影響は限られたものとなり、得られる利益も大幅に縮小するだろう。月に立った最初の人間であるユーリ・ガガーリンの言葉は、「地球は争いをするには小さ過ぎるが、協力をするには十分な大きさだ」というものだった。宇宙科学を進めていくのに必要なのは争いではなく、国際的な協力なのである。

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