Editorial
現実味を帯びてきたブタからヒトへの移植
Nature Medicine 28, 3 doi: 10.1038/s41591-022-01770-x
この半年間に、トランスジェニックブタからヒトへの臓器移植の実現可能性を示唆する、どきりとするような報告がなされてきた。トランスジェニックブタは約10のヒト遺伝子を発現するように設計されていて、移植臓器の急性免疫拒絶を避けるために除去すべきブタ遺伝子も特定されている。免疫抑制療法の改善にも進歩があった。しかし実用に当たっては、さまざまな懸念材料がある。まず問題になるのはブタ内在性レトロウイルス(PERV)で、これはレシピエントの体内で腫瘍形成や免疫不全を引き起こす可能性がある。治験参加者の選定や動物福祉に関する問題も考慮しなければならない。最近行われた、ブタからヒトへの移植という画期的臨床試験の結果は、異種移植がヒト臓器の深刻な不足の解決に役立つ可能性を示している。これからの課題は、臨床試験での有効性と安全性の実証、また動物からヒトへの臓器移植がはらむ倫理的問題についての率直な評価となると考えられる。これらについての答えは、移植を必要とする患者にとって異種移植が夢ではなくなるような次のステップを踏み出すのを後押しするだろう。