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アルツハイマー病:脳脊髄液プロテオミクスから常染色体顕性(優性)遺伝性アルツハイマー病の自然歴が明らかになる

Nature Medicine 29, 8 doi: 10.1038/s41591-023-02476-4

アルツハイマー病(AD)の病態は、認知症状が現れる何十年も前に起こり始める。この疾患の特徴は、アミロイドβ(Aβ)ペプチドの凝集によるAβ斑形成と、微小管タンパク質タウの蓄積による神経原繊維変化(NFT)という2つの病理学的過程である。しかしながら、脳の別な病理学的過程がAβ斑およびNFT病理の重要な疾患メディエーターであると考えられている。これらの病理学的過程が、疾患の経過とともにどのように進行していくのかは現在明らかになっていない。本論文では、常染色体顕性(優性)遺伝性ADの脳脊髄液(CSF)におけるプロテオミクス測定値を脳タンパク質の共発現と結び付けることで、60年にわたる時間尺度でADの病理学的過程が進行していく特徴を明らかにした。症状が現れる約30年前にAD CSFでは、Aβ斑に関連するSMOC1タンパク質とSPON1タンパク質が上昇し、続いて、シナプスタンパク質、代謝タンパク質、軸索タンパク質、炎症タンパク質が変化し、最終的には神経分泌タンパク質が減少した。このプロテオーム解析によって、Aβやタウの測定値と同等かそれ以上に、症状が現れる前に、常染色体顕性(優性)遺伝性ADの変異保持者と非保持者を識別できた。我々の結果は、ADの病態生理とその時間的変化の多面的な全体像を明らかにしている。このような知見は、Aβやタウ関連に加え、ADの精密な治療的介入やバイオマーカー開発に不可欠である。

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