Analysis
がん精密医療:10万ゲノムプロジェクトがんプログラムの1万3880の腫瘍試料についてのゲノムデータと臨床データの統合により得られたがん精密医療に関する知見
Nature Medicine 30, 1 doi: 10.1038/s41591-023-02682-0
10万ゲノムプロジェクトのがんプログラムは、がん患者の全ゲノム塩基配列解読(WGS)を行って、英国の国民保健サービス(NHS)でのがん精密治療の機会を評価するイニシアチブであった。ゲノミクス・イングランド社は、NHSイングランドと共同で、機密保持された研究環境内で、33のがんタイプにわたる1万3880の固形腫瘍試料から得られたWGSデータを解析し、ゲノムデータと実臨床での治療や転帰のデータを統合した。その結果、標準治療での検査が推奨される遺伝子に関して、体細胞変異の発生率は、がんのタイプによって異なることが明らかになった。例えば、グリオブラストーマでは94%の症例で小さなバリアントが存在し、58%の症例で少なくとも1つの遺伝子にコピー数変化が見られたのに対し、肉腫ではアクショナブルな(薬剤選択につながる)構造バリアントの発生が最も多かった(13%)。高悪性度漿液性卵巣がんでは、症例の40%で相同組換え欠損が見つかり、30%が生殖細胞系列の病的バリアントに結び付けられたことから、体細胞と生殖細胞系列の解析を組み合わせることの有用性が明らかになった。WGSと長期的なライフコースの臨床データを連携させることで、パンゲノムマーカーに従って層別化された患者に対する治療転帰の評価が可能になった。我々の知見は、予後に影響を及ぼすがん遺伝子を特定し、がんゲノミクスが患者の転帰にどのような影響を及ぼすかについての理解を深める上で、生存解析を可能にする実臨床データにゲノムデータを結び付けることの有用性を実証している。