Research Highlights
被覆:変わらぬ光沢
Nature Nanotechnology 2014, 714 doi: 10.1038/nnano.2014.144
ルネサンス初期から19世紀頃まで、表面に光沢を出し、色を飽和させ、芸術作品を保護する塗装剤として卵白が使われていた。卵白は非常に安定で、油や樹脂のように黄ばんだりぼろぼろになったりしないので、評判が良かった。しかし、評判が良かったにもかかわらず、卵白が安定な理由はほんど分かっていない。今回、レンセラー工科大学(米国)のG Belfortたちは、疎水性表面に吸着した卵白の自然構造がαヘリックス構造からβシート構造に変化し、酸素の障壁となることで絵画を保護することを示している。
Belfordたちは、描かれたばかりの油絵のモデルとなる疎水性のポリテトラフルオロエチレン膜をオボアルブミン(ニワトリ卵白の主なタンパク質)に浸し、減衰全反射フーリエ変換赤外分光法を用いてこのタンパク質の構造を調べた。24時間後には、オボアルブミン被覆のαヘリックス含有量が73%減少したが、βシート含有量は約44%増加した。この結果は、さらに長時間空気に曝した後には、このタンパク質被覆のほとんどをβシートが占めるようになることを示している。このβシートは、神経変性疾患に関連するアミロイド線維に見られるものに類似している。この被覆膜を、二室チャンバーの酸素を入れた下のチャンバーと、窒素を入れた上のチャンバーの間に入れたままにしておくと、この膜を通る酸素の拡散速度が時間と共に低下し、表面にオボアルブミンを4層被覆した場合にはゼロになった。これは、βシートが酸素を捕獲して、絵画に酸素が拡散するのを防いでいることを示唆している。