Research Highlights
水クラスター:高速蒸発
Nature Nanotechnology 2015, 1215 doi: 10.1038/nnano.2015.297
水は、生物学的現象と大気現象の大部分を支えている。しかし、バルク水の性質はかなりよく分かっているが、そうした現象の開始に関与していることの多い水分子のクラスターは、研究が非常に難しいため比較的調べられていない。リヨン大学、グルノーブル大学(いずれもフランス)、インスブルック大学(オーストリア)のM Farizonたちは今回、2分子から8分子の大きさのクラスターから蒸発する際の水分子の速度分布を測る方法を開発している。
Farizonたちは、質量に基づいてクラスターを慎重に選別し、次にそのクラスターにアルゴン原子を当てた。衝突のエネルギーが水クラスターのO–H振動子間で再分配されて、水分子の1つが蒸発する。次に、この離れていく分子の速度と方向を検出器で測定した。この実験を複数回繰り返すことによって意味のある統計データが得られた。
その結果、蒸発した水分子の速度分布が、低速成分と高速成分からなることが観測された。低速分子は、クラスターの振動モード間での衝突エネルギーの完全再分配から予想される。高速蒸発(全事例の約30%)は、全エネルギーがマクスウェル–ボルツマンに達する前に生じる。こうした非エルゴード的な化学的状態は、バルク水やもっと大きなクラスターとは基本的に異なっている。