Research Highlights

ライフサイクル・アセスメント:ITOをグラフェンに置き換えるべきなのか

Nature Nanotechnology 2015, 615 doi: 10.1038/nnano.2015.123

透明なスクリーンを持つスマートフォンなどのデバイスの液晶ディスプレイの透明電極に現在使われている標準的な材料は、酸化インジウムスズ(ITO)である。ITOは化学的に不安定で、インジウムは高価で稀少であるため、グラフェンが代替材料となる可能性があると提案されている。しかし、グラフェンに換えることでエネルギー利用や金属資源にどのような影響があるかはまだよく分かっていない。チャルマース工科大学のR Arvidssonたちは今回、ITOをグラフェンに換えると、グラフェン製造時のエネルギー利用がITO製造時よりも少ないため、有益となる可能性があることを示している。しかし、グラフェンに換えることで、他の影響が生じる可能性もある。

Arvidssonたちは、定評のあるライフサイクル・アセスメント手法を用いて、化学蒸着によってグラフェン電極を製造するのに必要なエネルギーと稀少金属量を調べ、ITOの製造と比較した。化学蒸着で銅などの触媒表面にグラフェンが形成される際に、余分なメタンガスが加熱されるが、今回の研究によって、メタンの利用がグラフェン製造時のエネルギー消費の主な要因であることが分かった。全球の埋蔵量を比べると、インジウムとスズは銅より稀少であると思われる。Arvidssonたちは、グラフェン製造に使われる銅は、ITO製造時に使われるインジウムとスズより約300倍多いにもかかわらず、銅の入手性によってグラフェンの製造が制限される可能性は低いが、現在の銅消費は持続可能ではないと示唆している。ITOをグラフェンに置き換えることで、社会の正味のエネルギー利用量が増加するのか、あるいは減少するのかは、この置換によって促進されるのが液晶ディスプレイ利用なのか、またはグラフェンを用いた他の新しい技術なのかによって決まるのである。

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