Research Highlights

強靱な絹繊維:ナノ材料

Nature Nanotechnology 2016, 1216 doi: 10.1038/nnano.2016.251

カイコ絹は、強くて大量生産が容易であり、織物として魅力的であるため、よく知られている。しかし、金属や導電性ポリマーなどの材料を組み込んで絹の性能を向上させる現行の方法の多くには、毒性のある化学物質や複雑な手順が必要である。今回、精華大学(中国)のY Zhangたちは、カーボンナノチューブやグラフェンで強化した絹線維を作製する簡単な方法を示している。

Zhangたちは、カイコガ(Bombyx mori)の幼虫(カイコ)に、さまざまな濃度の単層カーボンナノチューブ(SWNT)かグラフェンのどちらかを吹き付けたクワの葉を餌として与えた。こうしたカイコから得られた絹線維は、(破壊強度と破断伸びで判断すると)対照標準のカイコより強靱であった。ラマン分光法によって、SWNTの一部は絹繊維に取り込まれたが、残りは排出されたことが分かった。著者たちは、赤外分光法を用いて、この改質絹繊維に含まれるαヘリックスとランダムコイル構造は対照標準の絹繊維より多く、βシートはより少ないことも見いだした。この結果は、カイコが絹繊維を作る際に自然に起こる過程であるαヘリックスからβシートへの変化を、SWNTやグラフェンが妨げている可能性を示唆している。さらに、こうした組成の違いが、観測された強靱さに寄与していると考えられる。今回の給餌方式から、研究や繊維工業向けに強靱な絹繊維を製造するスケーラブルな方法が得られる。

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