Research Highlights

ナノデバイス:チップ上のマクスウェルの悪魔

Nature Nanotechnology 2016, 216 doi: 10.1038/nnano.2016.10

マクスウェルの悪魔は、ジェームズ・クラーク・マクスウェルが概念化した思考実験で、温度が等しい2つのガスリザーバーの間にある小さな穴を守る「存在」(つまり悪魔)が関与している。この悪魔は、個々の分子の速度を測って、速い分子だけを通すことができるので、仕事をすることなしに2つのリザーバーの間に温度差を作り出すことができ、一見したところ熱力学の第二法則を破る。これまで、全てのマクスウェルの悪魔の実現には、その機能を外部から制御する必要があったため、熱、エントロピー、情報転送といったこの過程に関与する熱力学的パラメーターを、定量的に評価するのは困難であった。アールト大学(フィンランド)のJ Pekolaたちは今回、外部からの介入なしに機能するマクスウェルの悪魔を作った。

Pekolaたちが作った系は、伝導電子のリザーバーとして機能する2本のアルミニウム超伝導ワイヤーでできている。この2つのリザーバーは銅アイランドを通してつながっていて、単一電子トランジスターを形成しており、バイアス電圧をかけることで、電子が一方向にのみトンネルできるようになっている。このアイランドに第二の単一電子トランジスターがつながっている。これが、マクスウェルの悪魔である。このマクスウェルの悪魔が、アイランド内部の電子の有無をクーロン相互作用によって感知し、フィードバック機構を使って迅速に応答する。このフィードバック機構は、常にポテンシャルエネルギー障壁に逆らって電子をトンネルさせてアイランドを出入りさせる。こうした坂を上る動きの最終的な結果は、この系のエントロピーの低下であり、右と左のリザーバーの間の温度の低下として測定された。しかし、支払うべき代償はマクスウェルの悪魔のエントロピーの上昇で、温度の上昇として測定された。この系とマクスウェルの悪魔の間に熱の交換はないので、エントロピーの上昇は、マクスウェルの悪魔によって得られた系についての情報量とリンクしている。

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