インプラント材料:摩耗粉を減らす
Nature Nanotechnology 2016, 216 doi: 10.1038/nnano.2016.12
関節全置換術が失敗することがよくあるのは、一般的に超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)でできているプロテーゼから摩耗粉が生じ、免疫反応のきっかけとなることがあるからである。摩耗粉の生成を防ぐには、ポリエチレンを架橋して摩擦特性を向上させたり、耐摩耗コーティングを使ったり、充填材を加えて耐摩耗性向上させたりといった、プロテーゼを改良する方法がある。しかし、こうした方法はそれぞれ、酸化が増大したり、剥離が増えたり、炎症を起こしたりする可能性がある。国立ナノ科学センターと西南交通大学(いずれも中国)のX Jiangたちは今回、ナノ結晶性セルロースとUHMWPEの複合材によって摩耗粉の生成を低減できることを示している。
この複合材は、ナノ結晶性セルロースとUHMWPEの混合物を高温圧縮して作製された。潤滑剤として水を用いた耐摩耗性試験によって、この複合材は、セルロースの濃度が高いほど、摩擦係数が小さくなり、クラックが少なくなって、あまり摩耗しなくなることが分かった。摩耗表面の穴と同程度の大きさのナノ結晶性セルロース集合体が見られた。これは、この集合体がUHMWPEから分離したものであり、剥離を防ぐのに役だったことを示唆している。さらに、この複合材から生じる摩耗粉は、純粋なUHMWPE試料より小さくて少なかった。細胞培養試験を行ったところ、この複合材から生じる摩耗粉が示す炎症反応と細胞毒性は、純粋なUHMWPEよりかなり低かった。今回の結果は、この複合材が有望な耐荷重材料であることを示唆しているが、臨床的に関連する条件の下でこの材料を試験することが極めて重要であると思われる。