Research Highlights
ナノ熱力学:原子1個の力
Nature Nanotechnology 2016, 616 doi: 10.1038/nnano.2016.102
熱機関は、熱エネルギーを力学的エネルギーに変換する。巨視的な熱機関は産業革命の基盤であったが、熱機関を可能な限り小さなスケールに縮小すれば、量子力学と熱力学の境界にある基本概念を調べる手掛かりになる可能性がある。今回、マインツ大学(ドイツ)のJ RoßnagelとK Singerたちは、単一原子の熱機関を実現したことを報告している。
円錐形の電磁トラップの軸に沿って、原子(40Ca+イオン)が1つ閉じ込められている。電磁トラップの狭い方の端で、電場雑音発生器が熱源として働いている。このイオンが熱くなると、電磁トラップの復元力に逆らって、ポテンシャルエネルギーが高い領域に向かってイオンが動くため、仕事が生じる。円錐の広い方の端では、青方離調したレーザーによってイオンが冷やされ、狭い方の端へイオンを送り返すため、閉じた熱力学サイクルが確立する。振動するたびに、原子が行う仕事が蓄積され、抑制されないままにしておけば、振幅がどんどん大きくなると思われる。著者たちは、この系を定常状態に保つために、制動機構として第二の冷却レーザーを用いている。このような方法で、彼らはそれぞれの振動に伴うエネルギーを測定できた。
この熱機関の効率は約0.3%であるが、動いている物質の質量当たりで生成される仕事率という観点では、この値は1.5 kW kg-1であり、車のエンジンと同程度である。