Research Highlights
グラフェン・スピントロニクス:スピン電荷変換を支配するのは?
Nature Nanotechnology 2016, 616 doi: 10.1038/nnano.2016.103
グラフェンは、拡散距離と緩和時間が非常に長いので、スピントロニクスに理想的な材料である。しかし、炭素原子の原子番号が小さいため、固有のスピン軌道結合は、逆スピンホール効果を介してスピン電荷変換を駆動するには弱すぎると考えられている。グラフェン系ヘテロ構造体におけるラシュバ相互作用は、より効率のよい機構で、いわゆる逆ラシュバ–エデルシュタイン効果を生じさせると思われる。しかし、今のところ実験的研究が系統的に行われておらず、こうした2つのシナリオを明確に区別できない。
今回、大阪大学のS Dushenkoたちは、単層グラフェンにおけるスピン電荷変換は、意外にも固有のスピン軌道結合によって支配されていることを立証している。Dushenkoたちは、イットリウム鉄ガーネットでできた薄膜基板に、単層グラフェンを転写した。外部磁場をかけると、低減衰フェリ磁性絶縁体の磁化の歳差運動が生じ、強磁性共鳴条件下でグラフェンにスピン流が効率よく注入された。これが、いわゆるスピンポンピング効果である。次に、グラフェンの電荷電流のタイプと密度を変えることで、スピン電荷変換を測定した。著者たちによると、電荷電流のゲート電圧依存性が実際に存在することから、この過程におけるラシュバ相互作用の役割は全て除外される。