Research Highlights
水分解:リンで空孔を埋める
Nature Nanotechnology 2017, 1217 doi: 10.1038/nnano.2017.241
水を分解して水素ガスを得るのは、化石燃料をカーボンニュートラルな燃料に置き換えるための魅力的な方法である。しかし、水の分解にかかるエネルギーの費用が高いというハードルを乗り越えるには、触媒が必要である。酸化コバルト触媒は、酸素生成半反応に優れた性能を示すが、プロトン還元活性が低い。最近の研究で、酸素空孔などの欠陥を導入すると、安定性を犠牲にして水分解活性を改善できることが見いだされた。
今回、LiとWangたちは、酸化コバルトの欠陥化学を調節することによって、水分解性能を向上させる方法を報告している。著者たちは、酸化コバルトナノシートをプラズマエッチングして、酸素欠陥を導入するとともにリン原子を埋め込んでいる。このリンドープ酸化コバルトは、不純物相を全く形成せずに親構造を保持している。さらに、リン原子によるシンクロトロンX線吸収実験によって、処理していない酸化コバルトや酸素空孔のある酸化コバルトと比べて、四面体型コバルトと八面体型コバルトの位置分布が変化していることが示された。
リンドープ酸化コバルトは、処理していない酸化コバルトや酸素空孔のある酸化コバルトと比べて、より高い総合的な水分解能力を示した。また、リン原子によって、元の酸化コバルトと比べて、この材料のプロトン還元ポテンシャルが300 mV低下した。さらに、空孔を埋めることによって、24時間近く水分解を続けた後も試料の安定性が減じることなく、より高い効率で酸素が生成された。こうした水分解性能の向上は、材料の導電率の増大と触媒表面での最適に近い水素吸着に起因する。