Research Highlights
AFM-IR:タンパク質のコンホメーションを調べる
Nature Nanotechnology 2018, 818 doi: 10.1038/s41565-018-0242-8
単一のタンパク質凝集体の化学的性質や構造的性質の評価は、生体におけるタンパク質のフォールディングとアンフォールディングの解明に極めて重要である。光熱誘起共鳴(PTIR)法は、AFM-IRとも呼ばれ、タンパク質のコンホメーションを調べるのに有力な方法であることが実証されている。しかし、赤外光(IR)が水に強く吸収され、カンチレバーの振動に流体抗力が干渉するため、液体環境での応用はまだ困難である。今回、NISTのCentroneたちは、水中においてSN比が高く、単一の繊維状凝集体の化学状態と構造状態の特定を可能にするPTIRスペクトルについて報告している。
著者たちはまず、厚さ200 nmのPMMA層で被覆した金プラズモン共振器のPTIRデータを、水中や空気中で取得できることを立証した。共振器のギャップ近傍でのナノスケールの閉じ込めによって表面増強IR吸収がもたらされ、同等の分解能とSN比で水中と空気中のIRスペクトルとIRマップが得られたのである。次に、単一のタンパク質凝集体のコンホメーションの特性評価にこの手法を適用できる可能性が検証された。H2Oの代わりにD2Oを用いて、アミドとのスペクトルの重なりを避けており、アルツハイマー病のβアミロイドペプチドの中核となる認識モジュールであるジフェニルアラニン(FF)とその誘導体Boc-FFが、モデル系として選ばれている。FFとBoc-FFは、形態がよく似た繊維状凝集体を水中で形成し得る。今回のPTIR法を用いて、繊維の二次構造と四次構造の性質の違いが、異なるIR指紋によって明らかになった。