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原子格子と自由電子の相互作用における量子反跳
Nature Photonics 17, 3 doi: 10.1038/s41566-022-01132-6
荷電粒子からの光の放出は、多くの科学的現象や技術的応用の基礎となっている。古典理論では、非偏向荷電粒子の軌跡を仮定することによって、放出された光子のエネルギーが決定される。1940年、ギンツブルグは、量子電磁力学においてはこの仮定が破綻し、出ていく光子のエネルギーが古典的予測値からシフトする(量子反跳と呼ばれる)と指摘した。その後、自由電子の光放出過程における量子反跳は、チェレンコフ放射やスミス・パーセル放射を含めて、理論的によく研究されているが、実験的実証は依然として困難である。今回我々は、量子反跳の実験的実証について報告し、この量子電磁力学効果が室温で観測可能なだけではなく、他の電子散乱機構の存在下でロバストであることを示す。我々は、卓上型プラットフォームにおいて周期的二次元原子シート状のファンデルワールス物質で自由電子を散乱させることによって、量子反跳理論だけでX線光子のエネルギーが正確に予測されることを示す。我々は、古典的に予測されたX線光子が極端に低いエネルギーの光子として放出される程度まで、量子反跳が非常に強くなり得ることを示す。我々は、量子反跳を、出ていく光子や電子のスペクトルを精密に制御する手段と考えており、電子エネルギー、原子組成、ファンデルワールス物質の傾斜角といった多くのパラメーターを通して量子反跳を調整できることを示す。今回の結果は、電子光子相互作用における量子電磁力学効果を利用し調べるための卓上型室温プラットフォームへの道を開く。