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カオス的なマイクロコムベースの並列測距

Nature Photonics 17, 9 doi: 10.1038/s41566-023-01246-5

カオスへの遷移は、流体力学や超伝導回路から生命体まで、非線形系の至る所で見られる。レーザーやスーパーコンティニウム生成など、平衡系から離された光学系は、振幅と位相の両方がゆらぐ光のカオス状態を示し、レヴィ統計、乱流、ローグ波を生じ得る。また、連続波によって駆動されるフォトニックチップベースのカーマイクロ共振器においても時空カオスが生じ、カオス的変調不安定性と呼ばれている。そうした変調不安定状態は、ソリトンやダークパルスを含むコヒーレント光状態とは対照的に、一般的に応用には非現実的と見なされている。今回我々は、光マイクロ共振器における光のインコヒーレントなカオス状態を利用すれば、カオス的コムラインの固有のランダム振幅・位相変調を用いて、干渉の影響を受けない明確な超並列コヒーレントレーザー測距を実現できることを実証する。我々は、変調不安定領域において動作させたマイクロ共振器周波数コムの40の異なるラインを利用している。各ラインは、共振器線幅を大幅に上回る1 GHzを超える雑音帯域幅を持ち、センチメートルスケールの分解能で物体の距離の取得を可能にする。今回の方法は、最も広く利用可能なマイクロコム状態の1つを利用しており、平坦な光学スペクトルだけでなく、散逸カーソリトン状態とは対照的に高い変換効率をもたらし、複雑なレーザー起動手順の必要性を軽減する。さらに、今回の方法は、電気光学変調器やマイクロ波シンセサイザーを必要とせずに広帯域信号変調を生成する。より広く捉えると、カオスダイナミクスを可能にする同様の光学系は、ランダム変調光学測距だけでなく、スペクトル拡散通信、光暗号化、乱数生成に応用できる可能性がある。

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