2024年10月号Volume 21 Number 10
悩みの種の塩に化学の力で挑む
現在、非従来型の脱塩淡水化方法の開発が進んでいる。こうした方法によって、より多くの飲料水が生成され、問題含みのブラインに対して多くの業界が対処できるようになり、バッテリー用のリチウム供給が増大する可能性がある。
Editorial
Research Highlights
リサーチハイライト
「石器時代の代替品?古代の模造琥珀ビーズ」「選択的手術:けがの種類によって仲間の傷の手当てをしたり脚を切断したりするアリ」「高齢マウスを若返らせるタンパク質を増やす」「ブラジルでアマゾンの森林破壊を引き起こす意外な国内要因」、他。
News in Focus
生きたマウスの腸内細菌の遺伝子編集に成功
「塩基エディター」によって、生きたマウスの腸内の大腸菌コロニーに含まれるほとんどの細菌の遺伝子を改変することに成功し、望ましくない副作用は観察されなかった。
エストニアのバイオバンクが研究参加者にゲノムデータを還元
同国の成人の5分の1が参加したこのプロジェクトは、遺伝学的健康リスクに関する結果を研究参加者と共有する世界最大規模の取り組みである。
生物学の主力研究ツールに潜む深刻な問題
実験室で作製された数千のプラスミドを解析したところ、その半数近くに設計上の深刻なエラーが見つかり、実験の再現性に疑問が生じている。
マンモスの皮膚から見つかった最初の化石染色体
DNAの三次元構造から、マンモスの細胞の中でどの遺伝子が働いていたかについてのヒントが得られた。
デニソワ人の高地での生活を支えた動物資源
チベット高原のデニソワ人は、過酷な環境を生き抜くために、マーモットからハイエナまで実に多様な動物を狩って利用していた。
実験室で作製された胚モデル:英国が研究指針となる初の規則を
各国は幹細胞ベースの胚モデルを使った研究をどう規制するかに頭を悩ませており、英国の自主的な取り組みを注視することになるだろう。
炎症性タンパク質を阻害するとマウスの寿命が延びた
ヒトにも、このIL-11と呼ばれる炎症性タンパク質は存在しているため、今後の健康長寿に向けた治療につながることが期待される。
Features
AIを加速する:コンピューティング革命を牽引する最先端チップ
技術者らはGPUなどのパワーを利用し、さまざまな手法を駆使して、人工知能が必要とする計算需要を満たしている。
研究の「お蔵入り問題」に挑む
研究者らは、否定的な結果がもっと出版されるようにしようと、いくつかの戦略を試してきた。どういった戦略が有効なのだろうか?
悩みの種の塩に化学で対処する
現在、非従来型の脱塩淡水化方法の開発が進んでいる。こうした方法によって、より多くの飲料水が生成され、問題含みのブラインに対して多くの業界が対処できるようになり、バッテリー用のリチウム供給が増大する可能性がある。
「PhDインフルエンサー」の時代
一部の博士課程学生は、自分の学生生活をソーシャルメディアに投稿することで多くのフォロワーを獲得し、収益を得て、旧来の科学者像を覆している。
News & Views
遺伝的多様性を内包したキメラ型脳オルガノイド
ヒトの大脳皮質の3次元組織モデルが、5人のドナー由来の細胞を混合して作製された。このモデルにより、脳の発達や疾患の研究で遺伝的背景を考慮できるようになる。
中間質量ブラックホールの証拠をω星団で発見
ハッブル宇宙望遠鏡が20年間に撮影した画像を使って、地球に近い星団、「ω(オメガ)星団」の中心部に高速で運動する星々が発見された。これらの星は、長く探し求められてきた中間質量ブラックホールの存在の証拠になる。
2023年の北半球の夏は過去2000年間で最も暑かった
北半球の樹木の年輪に刻まれた2000年分の夏の気温の記録から、観測史上最も高温だった2023年の夏がどれほど異例の暑さだったかが明らかになった。産業革命前からの温暖化を裏付ける、注目すべき知見である。
アルツハイマー病脳のin situ画像
アルツハイマー病患者の脳では、アミロイドβペプチドとタウタンパク質がそれぞれフィラメントを形成して沈着している。脳組織の薄切片を3次元画像化する電子顕微鏡アプローチにより、これらのフィラメントを脳本来の環境で観察することができる。
Advances
オランウータンの巣作り
長い年月をかけて技術を習得し健全な眠りを確保している。
ビートを感じる脳
適度なシンコペーションに脳はノリノリになる。
Where I Work
Shiva Shirani
Shiva Shiraniは、マラガ大学(スペイン)の材料科学およびX線撮像法のポスドク研究員。