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Communications Earth & Environment に掲載された一次研究論文(Articles および Letters)について、その概要を日本語で紹介しています。
Article: 森林伐採と気候変動はブラジルのアマゾンにおける熱波の危険性を増大すると予測される
Deforestation and climate change are projected to increase heat stress risk in the Brazilian Amazon
doi: 10.1038/s43247-021-00275-8
アマゾン盆地の完全なサバンナ化は、局所的に熱にさらされることに対する気候変動の影響を強め、人間の健康へ危険を科すことになると、気候モデル予測が示している。
Article: 野外での仕事を強調するよりも利他主義を強調することが地球科学のキャリアでは多様なアメリカの学生の理想と一致する
Highlighting altruism in geoscience careers aligns with diverse US student ideals better than emphasizing working outdoors
doi: 10.1038/s43247-021-00287-4
地球科学の就職活動で一般的に強調される野外での仕事への期待は、学生が将来のキャリアパスを考えたときに、利他的な要素よりは魅力的ではないと、アメリカ南西部の多様な大学の学生に対する調査が示している。
Article: スマトラ島のトバ・カルデラの再噴火の始まりと高温のマグマの冷たい殻による準固化噴火
Resurgence initiation and subsolidus eruption of cold carapace of warm magma at Toba Caldera, Sumatra
doi: 10.1038/s43247-021-00260-1
スマトラ島のトバ・カルデラで、7万4千年前の破局的噴火に引き続いて起きたカルデラ形成後の噴火は、高温のマグマ貯留層の温度の低い領域の試料を含んでおり、その不均質性を示唆していると、熱年代学とベイズ統計を組み合わせた分析が示している。
Article: 姶良カルデラの爆発的なカルデラ形成噴火におけるマグマだまりの減圧
Magma chamber decompression during explosive caldera-forming eruption of Aira caldera
doi: 10.1038/s43247-021-00272-x
3万年前に日本の姶良火山噴火で起きたプリニー式噴火初期にマグマだまりで相当量の減圧が起きたことで、大きな地殻変動とカルデラ崩壊が生じたと、石英のくぼみの水含有量を分析した結果が示している。
Article: 航空磁気測量データから推測した西南極スウェイツ氷河下の高地熱流量
High geothermal heat flow beneath Thwaites Glacier in West Antarctica inferred from aeromagnetic data
doi: 10.1038/s43247-021-00242-3
南極のアムンゼン海域の下では、岩石の磁気的性質が変化する深さである、キュリー点深度が浅いことが、航空磁気測量データから示されている。このことは、西南極地溝帯のこの地域では、地熱流量が高いことを示唆している。
Article: 南極海全体の温暖化による大西洋南北熱塩循環の氷河モードシフト
Glacial mode shift of the Atlantic meridional overturning circulation by warming over the Southern Ocean
doi: 10.1038/s43247-021-00226-3
大西洋南北熱塩循環の強化により起きた急激な北半球の温暖化は、南極海全体の温暖化が引き金となった可能性があると、海氷結合海洋大循環モデルによる数値シミュレーションが示している。
Article: ワンデル海で加速している海氷の消失は極域最後の氷域の変化を示している
Accelerated sea ice loss in the Wandel Sea points to a change in the Arctic’s Last Ice Area
doi: 10.1038/s43247-021-00197-5
2020年8月における北極海の氷ダイナミクスは、最後の氷域は気候変動と自然の気候変化に対してこれまで考えられていたより脆弱であると、人工衛星データと海氷モデル実験の解析が明らかにしている。
Article: リュウグウで観測された揮発性物質の消失は衝突加熱のみによるものではない
Ryugu’s observed volatile loss did not arise from impact heating alone
doi: 10.1038/s43247-021-00218-3
小惑星リュウグウから揮発性物質が失われたのは、これまで考えられていたような超高速での衝突による加熱のみによるものではないと、主要な小惑星帯で予想される速度で行った衝突実験が示唆している。
Article: よごれのない燃える航空燃料は飛行機雲の雲量を減少させる
Cleaner burning aviation fuels can reduce contrail cloudiness
doi: 10.1038/s43247-021-00174-y
すすの生成レベルが低い芳香族成分を混合した持続可能な燃える航空燃料は、すすと氷の個数濃度を50から70%減少させ、氷の結晶の大きさを増加させうると、二機の航空機の作戦における排気と飛行機雲の特性の測定が示唆している。
Article: 植物プランクトンの光順化は海洋の海中葉緑素極大の全球分布を決定する
Photoacclimation by phytoplankton determines the distribution of global subsurface chlorophyll maxima in the ocean
doi: 10.1038/s43247-021-00201-y
環境条件に応答した細胞内の資源配置の交換は、全球の海洋における海中の葉緑素極大深度を矛盾なく説明すると、生物地球化学的海洋循環モデルによるシミュレーションが報告している。
Article: ヨーロッパの淡水腹足類の現在の絶滅率は白亜紀後期大量絶滅よりもはるかに大きい
Current extinction rate in European freshwater gastropods greatly exceeds that of the late Cretaceous mass extinction
doi: 10.1038/s43247-021-00167-x
白亜紀後期大量絶滅におけるヨーロッパの淡水腹足類の絶滅率はこれまで過小評価されていたが、それでも現在の割合より低かったと、化石の記録と現在の生物多様性を比較した結果が示している。
Article: 衝突は小惑星母天体上で水の変成と固体有機物を形成させる熱を提供する
Impacts may provide heat for aqueous alteration and organic solid formation on asteroid parent bodies
doi: 10.1038/s43247-021-00159-x
小惑星の母天体の衝突加熱は、衝突クレーター底の下で水の変成をもたらし、固体有機物質を生成させるために十分な可能性があると、二段式軽ガス銃を用いた直接的な実験が示している。
Article: 北西大西洋大陸棚の急速な温暖化に先立つメキシコ湾流の変化
Changes in the Gulf Stream preceded rapid warming of the Northwest Atlantic Shelf
doi: 10.1038/s43247-021-00143-5
2008年にメキシコ湾流が北向きに変化しラブラドル海流を中断したことは、1年後の北西大西洋大陸棚の急速な温暖化と生態系の変化の原因となった可能性があると、人工衛星高度計と海面下の直接測定が示唆している。
Article: その土地固有の土地利用の遺産がアメリカ盆地高原地域の過去の野生動物生態を形成した
Legacies of Indigenous land use shaped past wildfire regimes in the Basin-Plateau Region, USA
doi: 10.1038/s43247-021-00137-3
アメリカ西部盆地高原地域におけるその土地固有の農場経営は、高地の森林火災の形態に影響を及ぼしたと、保存された堆積物、年輪および考古学的データが示している。
Article: 冬季にアザラシに搭載された観測が明らかにしたアムンゼン海南東部の氷河融解水の浮上
Winter seal-based observations reveal glacial meltwater surfacing in the southeastern Amundsen Sea
doi: 10.1038/s43247-021-00111-z
冬季のアムンゼン海で、層と水柱が連結した極めて変化に富んだ融解水の分布が見つかり、これによりこの地域の開氷域が維持されている可能性があるとアザラシにより得られた水文学的データが示している。
Article: 巨大地震前後のプレート境界断層に沿った非地震学的滑り速度の進化
Evolution of aseismic slip rate along plate boundary faults before and after megathrust earthquakes
doi: 10.1038/s43247-021-00127-5
巨大地震の直後すぐに増加し、それから急速に減少する非地震学的滑り速度は、次の地震に向けて再び徐々に増加すると、日本の密な地震観測網を用いて全球の地震観測を行った結果が示している。
Article: 国ごとの放出削減率は各国が決めた寄与よりも80%増加させないと摂氏2度の目標は達成できない
Country-based rate of emissions reductions should increase by 80% beyond nationally determined contributions to meet the 2 °C target
doi: 10.1038/s43247-021-00097-8
摂氏2度の気候温暖化目標を越えない確率は、もしすべての国が各国が国内で決めた寄与を満たし放出を継続して削減するならば、26%程度になると、統計に基づいた確率論的枠組みによる解析が報告している。
Article: 微生物の生体内変化実験によるノアキア代の火星角礫岩NWA7304の化学的無機栄養化
Chemolithotrophy on the Noachian Martian breccia NWA 7034 via experimental microbial biotransformation
doi: 10.1038/s43247-021-00105-x
火星の地殻物質に生息する陸上化学的無機栄養微生物は、過去の生命の証拠を探索する将来の計画で検出可能な明瞭な生命の痕跡を生成すると、ノアキア代の火星隕石の実験が報告している。
Review Article: 気候変動と変動度のオーストラリア南東部の大規模森林火災との関連性
Connections of climate change and variability to large and extreme forest fires in southeast Australia
doi: 10.1038/s43247-020-00065-8
オーストラリア南東部における火災の危険性に対して複数の気候による寄与は、過去数十年にわたり火災の規模と強度を増大させてきたが、この傾向は今後も継続しそうであると、気候変動度の合成、長期的傾向および古気候の証拠が示唆している。
Article: 1959年にディアトロフ峠で起きたスラブ雪崩の放出メカニズムとその影響
Mechanisms of slab avalanche release and impact in the Dyatlov Pass incident in 1959
doi: 10.1038/s43247-020-00081-8
1959年にウラル山脈北部で9人のロシア人登山者が亡くなった事件は解明されていないが、テントを設置するために斜面を削ったことと、風に飛ばされた雪が不規則な地形によって堆積したことでスラブ雪崩が発生したことにより説明できる可能性があると、解析モデルと数値モデルの結果が示している。
Article: 地球の生息可能性を決定するために偶然が果たす役割
Chance played a role in determining whether Earth stayed habitable
doi: 10.1038/s43247-020-00057-8
地球が30億年にわたり生息可能に保たれたかどうかは、おそらくは安定化のメカニズムによるだけではなく偶然であったと、ランダムに決められた気候フィードバックにより与えられた数千個の惑星のシミュレーション結果が示している。
Comment: 海水面変動の別の側面
The other side of sea level change
doi: 10.1038/s43247-020-00075-6
内海や湖の水面は、21世紀にわたり気候変動に応答して、全球的に降下しており、時には劇的に降下が起きている。本稿では、カスピ海の事例に基づいて、人類、生物多様性および地政学的安定に対する脅威の意識啓発のための協調した運動について論じている。
Article: メタンがシェール中の微小空隙に捕獲されることによる高圧でのメタン回収の減少
Reduced methane recovery at high pressure due to methane trapping in shale nanopores
doi: 10.1038/s43247-020-00047-w
液体状のメタンは、シェールガス掘削時に圧力のピークが高くなるほど、回収されずに2nm以下の空隙に捕獲される可能性がある。このことは、マーセラス・シェールガス田で得られた試料の統合分子シミュレーションと高圧中性子小角散乱により明らかになった。
Article: イソプレン光酸化生成物の陸上植物での急速な転換
Rapid conversion of isoprene photooxidation products in terrestrial plants
doi: 10.1038/s43247-020-00041-2
イソプレン酸化物はポプラの葉に急速に付着して解毒し、最大1.5%が大気中にメチルエチルケトンとして再放出されることが、実験室と野外実験および化学物質輸送モデルシミュレーションにより明らかになった。
Review Article: 人類の桁外れなエネルギー消費とその結果西暦1950年前後に始まった地質学的な影響は提案されている人新世時代をもたらしている
Extraordinary human energy consumption and resultant geological impacts beginning around 1950 CE initiated the proposed Anthropocene Epoch
doi: 10.1038/s43247-020-00029-y
人類のエネルギー消費と生産は西暦1950年前後に急激に上昇し、地球の完新世時代から離れて人新世の時代に入ったことが、地球システムに対する人類の影響を定量的に解析した結果から示唆されている。
Article: コロラド川の水の供給は長期間の海洋の記憶により複数年の時間スケールで予測可能である
Colorado River water supply is predictable on multi-year timescales owing to long-term ocean memory
doi: 10.1038/s43247-020-00027-0
大西洋と太平洋の海水面温度異常は、コロラド川盆地の水の貯蔵量を予測するために役立つと、数10年の気候予測と観測の解析が示している。
Article: 現在のヒ素化微生物群落が提供する無酸素の始生代生命体の類推
Modern arsenotrophic microbial mats provide an analogue for life in the anoxic Archean
doi: 10.1038/s43247-020-00025-2
チリの高塩性のラ・ブラバ湖に生息するヒ素を消費する微生物は、始生代の無酸素条件下における初期生命の類推となる可能性があると、現存する微生物群落を地球化学分析およびメタゲノム解析を行った結果が示している。
Article: 大西洋の強い子午線逆転循環により増幅された鮮新世後期の北半球氷河
Latest Pliocene Northern Hemisphere glaciation amplified by intensified Atlantic meridional overturning circulation
doi: 10.1038/s43247-020-00023-4
ノルディック海の活動的な逆転と強い大西洋の循環が、270万年前より後の北半球の強い氷河期と一致していると、IODP U1314サイトで得られたコアの複数プロキシ調査が示している。
Article: 持続する氷河の後退によるグリーンランド氷床からの動的な氷の損失
Dynamic ice loss from the Greenland Ice Sheet driven by sustained glacier retreat
doi: 10.1038/s43247-020-0001-2
放水変化と氷山分離線の位置の解析によると、過去30年間におけるグリーンランド氷床からの動的な質量損失の背景にある主要な過程は氷河の後退であることが分かった。
Article: 焼結断層岩の生成とその地震エネルギー論と断層修復に対する意味
Generation of sintered fault rock and its implications for earthquake energetics and fault healing
doi: 10.1038/s43247-020-0004-z
地震が引き起こす焼結断層岩は地震のすべり直後の期間の断層修復過程を増加させる可能性があると、天然及び実験室の試料の観測が示している。