【気候科学】最近減衰している大西洋の海流系の評価結果
Nature
2018年4月12日
Climate science: Recent Atlantic Ocean current system weakening assessed
大西洋の南北方向の鉛直循環(AMOC)という海流系が最近になって減衰していることについて2つの独立した分析が実施され、それぞれの結果を報告する2編の論文が今週掲載される。AMOCは、我々の気候だけでなく、熱の再分配や炭素循環にも大きく影響する。しかし、ここ数十年間はAMOCが減衰しているように見えることが、長期的な自然変動の反映と考えられるのかどうかは明らかになっていない。
今回、David Thornalleyたちの研究グループは、小氷期の終了(1850年頃)以降、ラブラドル海の深層対流とAMOCが、それまでの1500年間と比べて異常に弱くなっていることの古海洋学的証拠を提示している。Thornalleyたちは、小氷期の終了が北極海とノルディック海からの淡水の放出と関連しており、これが引き金となってAMOCが減衰へ移行したという考えを示している。しかし、この分析で用いられた複数の代理指標に対してAMOC以外の影響があること、また、こうした代理指標のAMOCに対する感度はさまざまであることから、この移行が小氷期の終了に向けた突然の変化として起こったのか、それとも過去150年間に徐々に起こったものなのかを判定することは難しい。
一方、Levke Caesarたちの研究グループは、いくつかの全球気候モデルと全球海面水温のデータセットを組み合わせて、AMOCが20世紀中頃から約3スベルドラップ(15%)減衰したことの痕跡を見いだした。この痕跡とは、熱輸送の減少を原因とする亜寒帯大西洋の寒冷化と、メキシコ湾流の平均流路が北方へ移動することによるメキシコ湾岸地域の温暖化であり、冬季と春季に非常に顕著に見られる。
この2つの結果においてAMOCの減衰時期が異なっているが、これは、AMOCの表現に数多くの微妙な差異があることの反映である可能性が高い。同時掲載のSummer PraetoriusのNews & Viewsでは、次のように述べている。「これらの2つの研究は、現在のAMOCが比較的弱い状態にあるという結論で一致しており、少なくとも科学的には安心感が得られる。しかし将来的な気候変動のシナリオに照らしてみると、それほど安心していられないかもしれない。AMOCの減衰によって北半球全体で気候パターンと降水パターンがかなり変わってしまう可能性があるからである」。
doi: 10.1038/s41586-018-0006-5
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