昆虫の遺伝子組換えを目で見て判定できる優性マーカー
A visible dominant marker for insect transgenesis
2012年12月18日 Nature Communications 3 : 1295 doi: 10.1038/ncomms2312
現在ほとんどの昆虫において、遺伝子組換え体は蛍光マーカーを用いて判別されている。今回我々は、幅広い動物に存在するメラニン色素の色を変化させることにより、肉眼で識別できる遺伝子組換えマーカー系を確立することに成功した。カイコBombyx moriにおいて、アリールアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子を全身で過剰に発現させたところ、孵化したばかりの1齢幼虫の体色が黒から明るい褐色へと変化した。そして、この遺伝子をバキュロウイルスのimmediate early 1遺伝子のプロモーターに直接連結することにより、遺伝子組換えマーカーとして利用することができた。Bm-アリールアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼによる黒色メラニンの着色の抑制効果は、幼虫すべての齢に加え、成虫でも観察された。また、カイコの別の遺伝子、β-アラニル-ドーパミンシンテターゼ(Bm-ebony)遺伝子を過剰発現させたところ、1齢幼虫の体色は正常な黒い色だったが、2齢以降の幼虫では体色が変化した。さらに、ナミテントウHarmonia axyridisとキイロショウジョウバエDrosophila melanogasterにおいても、Bm-アリールアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子の異所発現によって体色が薄くなることがわかり、この遺伝子組換えマーカーがさまざまな昆虫に広く利用できる可能性があることが明らかになった。
二橋(長内)美瑞子1, 大出 高弘2, 平田 隼也2, 内野 恵郎1, 二橋 亮3, 田村 俊樹1, 新美 輝幸2 & 瀬筒 秀樹1
- 独立行政法人 農業生物資源研究所(NIAS)遺伝子組換え研究センター 遺伝子組換えカイコ研究開発ユニット
- 名古屋大学 大学院生命農学研究科
- 独立行政法人 産業技術総合研究所(AIST)