エンドソームでの選別異常に関連し網膜変性の原因となるSemaphorin 4A中の点突然変異とSema4Aを用いた網膜疾患治療への応用
セマフォリン4A(Sema4A)は、視細胞の生存に関係すると考えられている。本研究で、野島たちは、Sema4A遺伝子のさまざまな変異を有するトランスジェニックマウスを作製し、F350の点突然変異によって、重度の視細胞変性が起こり、ウイルスを用いた遺伝子治療によって、この変性を回復できることを明らかにした。
A point mutation in Semaphorin 4A associates with defective endosomal sorting and causes retinal degeneration
2013年1月29日 Nature Communications 4 : 1406 doi: 10.1038/ncomms2420
セマフォリン4A(Sema4A)は、光受容体の生存に非常に重要な役割を担っている。ヒトにおいても、Sema4Aに生じた変異は網膜変性疾患の一因であると考えられている。今回我々は、Sema4A遺伝子中にD345H、F350C、R713Qという変異をそれぞれ導入した一連のノックインマウスを作製し、Sema4AF350Cが網膜変性の表現型を引き起こすことを見いだした。F350C変異によって、Sema4Aタンパク質は異常な局在パターンを示すようになり、その結果、光受容体の生存に不可欠な分子群のエンドソームにおける選別が障害される。また、タンパク質立体構造モデリングによって、350番目のアミノ酸の側鎖がタンパク質の適切な立体構造を維持するのに必須であることが明らかになった。さらに、Sema4A遺伝子を用いた遺伝子治療の手法により、Sema4AF350C/F350CおよびSema4A-/-マウスの光受容体の変性を有意に防止することができた。我々の結果は、ヒトおよびマウスの網膜の恒常性維持にSema4Aタンパク質の立体構造が重要であることを示すのみでなく、網膜変性疾患の新規の治療標的をも示唆した意義深いものと考えられる。
野島 聡1,2, 豊福 利彦1, 鎌尾 浩行3,4, 石上 智愛3, 金子 潤3, 奥野 龍禎1,5, 高松 漂太1, 伊藤 大介1,6, 姜 秀辰1,6, 木村 哲也1,6, 吉田 祐志1,6, 森本 桂子1,6, 前田 陽平1,7, 緒方 篤1,6, 伊川 正人8, 森井 英一2, 青笹 克之2, 高木 淳一9, 高橋 政代3 & 熊ノ郷 淳1,6,10
- 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター
- 大阪大学大学院 医学系研究科 病態病理学
- 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター 網膜再生医療研究開発プロジェクト
- 川崎医科大学 眼科学教室
- 大阪大学大学院 医学系研究科 神経内科学
- 大阪大学大学院 医学系研究科 呼吸器・免疫アレルギー内科学
- 大阪大学大学院 医学系研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学
- 大阪大学 微生物病研究所 附属感染動物実験施設
- 大阪大学 蛋白質研究所
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