新種の植物脂質はリン欠乏からの保護に必須である
リン供給量は、作物の収量減少を引き起こす主たる因子の1つだ。本研究で、岡咲洋三たちは、非標的リピドミクスを用いて、植物をリン欠乏から保護するために必須の新規植物脂質グルクロノシルジアシルグリセロールの生合成経路を明らかにした。
A new class of plant lipid is essential for protection against phosphorus depletion
2013年2月26日 Nature Communications 4 : 1510 doi: 10.1038/ncomms2512
リンの供給量は作物の収量低下にかかわる主要な因子の1つである。そのため、植物は脂質のリモデリングなどの、リン欠乏に対する多様な適応機構を備えている。本論文では、植物の新規な脂質であるグルクロノシルジアシルグリセロールがリン欠乏環境への適応にかかわっていることを報告する。リン欠乏状態で栽培されたシロイヌナズナ(Arabidopsis)の脂質分析から、グルクロノシルジアシルグリセロールがリン欠乏によって誘導され、蓄積することがわかった。また、スルホキノボシルジアシルグリセロールという含硫黄膜脂質の生合成に関連する遺伝子を欠失するシロイヌナズナの変異体を解析した結果、グルクロノシルジアシルグリセロールの生合成には、葉緑体中に存在するスルホキノボシルジアシルグリセロール合成経路の一部が必要であることが示された。リン欠乏条件下では、シロイヌナズナの3種類のスルホキノボシルジアシルグリセロール欠失変異体のうちで、スルホキノボシルジアシルグリセロールもグルクロノシルジアシルグリセロールも蓄積しないsqd2変異体がもっとも顕著な生育不良の症状を示した。ほかの2種類の変異体にはグルクロノシルジアシルグリセロールが存在するので、この結果はグルクロノシルジアシルグリセロールがリン欠乏ストレスから植物を保護する役割を持っていることを示している。グルクロノシルジアシルグリセロールはイネにも含まれており、リン欠乏によってその蓄積量が顕著に上昇するので、リン欠乏からの保護という、この新規な脂質の生理的重要性は植物に広く共通していると考えられる。
岡咲 洋三1, 大槻 瞳1, 成澤 知子1, 小林 誠1, 澤井 学2*, 上出 由希子1, 草野 都1, 青木 俊夫3, 平井 優美1,4 & 斉藤 和季1,2
- 理化学研究所 植物科学研究センター メタボローム研究推進部門
- 千葉大学大学院 薬学研究院
- 日本大学 応用生物科学科
- 科学技術振興機構(JST)CREST
*現所属: 理化学研究所 植物科学研究センター