Research Abstract
魚類の血管嚢は日照時間の季節変化を感知するセンサーである
血管嚢は、多くの有顎魚類の視床下部の脳室周囲器官だが、その機能は300年以上前から解明されていない。本稿で著者らは、血管嚢が日照時間の季節変化を感知するセンサーとして働いている証拠を示した。
The saccus vasculosus of fish is a sensor of seasonal changes in day length
2013年7月2日 Nature Communications 4 : 2108 doi: 10.1038/ncomms3108
鳥類や哺乳類においては、下垂体隆起葉が、季節繁殖を制御する中枢となっている。魚類にも確固とした季節応答が見られるが、解剖学的に明確に区別できる隆起葉は存在しない。本論文では、魚類の血管嚢が季節センサーであることを報告する。早熟サクラマス(ヤマメ)の血管嚢において、季節繁殖を制御する重要な遺伝子群やロドプシン・ファミリー遺伝子群の発現が観察された。免疫組織化学的な研究から、これらの遺伝子の全てが血管嚢の王冠細胞で発現していることが明らかとなった。このことは、光による入力から神経内分泌系への出力までを含む光周性シグナル伝達経路が王冠細胞内に存在することを示唆している。さらに、単離した血管嚢は光周性シグナルへの応答能を示し、血管嚢を摘出したヤマメでは生殖腺の光周性応答が消失した。血管嚢の生理的な役割は数世紀もの間、謎に包まれてきたが、今回の知見は、魚類の血管嚢が日照時間の季節変化を感知するセンサーとして働いていることを示している。
中根 右介1, 池上 啓介1, 飯郷 雅之2, 3, 4, 5, 小野 ひろ子1, 武 田 維倫2, 5, 6, 高橋 大輔2, 上坂 真衣子2, 君嶋 明太2, 橋本 蘭夢2, 新井 菜津美2, 菅 琢哉2, 小菅 克弥2, 阿部 朋孝2, 5, 前 田 遼介1, 千賀 琢未1, 阿見彌 典子7, 東 照雄8, 天野 勝文7, 阿部 秀樹9, 山本 直之9 & 吉村 崇1, 10, 11, 12
- 名古屋大学大学院 生命農学研究科 応用分子生命科学専攻 応用遺伝・生理学講座 動物機能制御学研究分野
- 宇都宮大学 農学部 応用生命化学科 生物有機化学研究室
- 宇都宮大学 バイオサイエンス教育研究センター (C-Bio)
- 宇都宮大学 オプティクス教育研究センター (CORE)
- 東京農工大学大学院 連合農学研究科 応用生命科学専攻
- 栃木県水産試験場
- 北里大学 海洋生命科学部 魚類生理学研究室
- 独立行政法人水産総合研究センター中央水産研究所 内水面研究部
- 名古屋大学大学院 生命農学研究科 生物機構・機能科学専攻 生物機能分化学講座 水圏動物学研究室
- 名古屋大学大学院 生命農学研究科 附属鳥類バイオサイエ ンス研究センター
- 名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所 (WPI-ITbM)
- 基礎生物学研究所 環境生物学領域
The pars tuberalis of the pituitary gland is the regulatory hub for seasonal reproduction in birds and mammals. Although fish also exhibit robust seasonal responses, they do not possess an anatomically distinct pars tuberalis. Here we report that the saccus vasculosus of fish is a seasonal sensor. We observe expression of key genes regulating seasonal reproduction and rhodopsin family genes in the saccus vasculosus of masu salmon. Immunohistochemical studies demonstrate that all of these genes are expressed in the coronet cells of the saccus vasculosus, suggesting the existence of a photoperiodic signalling pathway from light input to neuroendocrine output. In addition, isolated saccus vasculosus has the capacity to respond to photoperiodic signals, and its removal abolishes photoperiodic response of the gonad. Although the physiological role of the saccus vasculosus has been a mystery for several centuries, our findings indicate that the saccus vasculosus acts as a sensor of seasonal changes in day length in fish.