グループAのPP2C群は陸生植物に本来備わっている乾燥耐性の重要な調節因子として出現した
アブシジン酸はコケ植物の乾燥耐性の誘導に必須の役割を果たす。本稿で著者らは、ヒメツリガネゴケは、アブシジン酸がなくても、2C型プロテインホスファターゼの除去だけで十分に生存し続けられることを明らかにする。
Group A PP2Cs evolved in land plants as key regulators of intrinsic desiccation tolerance
2013年7月31日 Nature Communications 4 : 2219 doi: 10.1038/ncomms3219
コケ植物では、栄養組織が乾燥耐性を持つことが一般的だが、ほとんどの維管束植物ではこの性質が失われている。コケ植物であるヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)は、アブシジン酸(ABA)を与えれば極端な乾燥の下で生き延びることが可能である。グループAの2C型プロテインホスファターゼ(PP2C)はアブシシン酸シグナル伝達の負の調節因子である。本論文では、ヒメツリガネゴケが極端な乾燥条件を生存し続けるには、成長は大きく妨げられるにしても、グループA・PP2Cの除去だけで十分であり、ABA処理は必要ないことを示す。マイクロアレイ解析から、グループA・PP2Cによって調節される遺伝子は、ABAで高レベルに発現が誘導される遺伝子とほとんど重複していることがわかった。グループA・PP2Cを破壊しても、ABAによって活性化されるキナーゼ活性はほとんど影響を受けない。このことは、コケ植物ではグループA・PP2Cがこれらのキナーゼの下流で働いていることを示している。以上のことから、グループA・PP2Cは陸上植物において乾燥耐性を抑制するために出現し、それは植物の陸上での繁殖に役立ったと考えられる。一方でABAは陸上植物が本来有している乾燥耐性をグループA・PP2Cの調節から解放する役割を持つと考えられる。
小松 憲治1*, 鈴木 規弘1, 桑村 麻由里1, 西川 友梨1, 中谷 麻央1, 太田 和眸1, 竹澤 大輔2, 関 原明3, 田中 真帆3, 太治 輝昭1, 林 隆久1, & 坂田 洋一1
- 東京農業大学 バイオサイエンス学科
- 埼玉大学大学院 理工学研究科・環境科学研究センター
- 独立行政法人 理化学研究所 環境資源科学研究センター
*現所属先: 東京農業大学短期大学部 生物生産技術学科