コンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1は神経損傷からの回復を妨げる
硫酸グリコサミノグリカンコンドロイチンは、軸索の成長を阻害する。本稿で著者らは、コンドロイチン硫酸の生合成が欠如したマウスは、脊髄損傷からの回復をコンドロイチナーゼよりも効率的に促進するヘパラン硫酸の濃度が上昇することを示した。
Chondroitin sulphate N-acetylgalactosaminyl-transferase-1 inhibits recovery from neural injury
2013年11月12日 Nature Communications 4 : 2740 doi: 10.1038/ncomms3740
神経再生には、軸索伸長を妨げる細胞外因子と、伸長を促進する内在性因子とが影響を及ぼす。単一の遺伝子を標的とする治療法で、この両方の因子を同時に軸索再生に関して最適化できるものはまだ報告がない。コンドロイチン硫酸(CS)はグリコサミノグリカンの一種で、細胞外の軸索伸長阻害因子としては最も大量に存在する分子である。今回我々は、CS生合成に重要な役割を持つ酵素であるCS Nアセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1(T1)の遺伝子をノックアウトしたマウスでの脊髄損傷からの回復は、あらゆる点で野生型マウスより良好で、さらにCS分解酵素であるコンドロイチナーゼABC処理した野生型マウスをもしのぐことを示した。特に、T1ノックアウトマウスでは、軸索伸長を促進するグリコサミノグリカンであるヘパラン硫酸(HS)の合成も増加していた。これはこの変異体マウスのニューロンで、HS合成酵素が誘導されるためである。また、野生型マウスのコンドロイチナーゼABCでの処理では、HSの発現上昇の誘導は認められなかった。以上をまとめると、今回の結果はT1という単一遺伝子の調節が、(1) 脊髄損傷からの優れた回復結果につながること;(2) この現象は軸索再生に相反する影響を及ぼす因子、つまり細胞外阻害因子であるCSと、内在性の伸長促進因子(この場合にはすなわち、 HS合成酵素群の活性)の双方の最適化によって達成されていることの各々を明らかにしたものである。
武内 恒成1,2, 吉岡 望1,2,3,4, 比嘉 進1, 渡邊 裕美1,2,4, 宮田 真路5, 和田 芳野1, 工藤 千佳1, 岡田 正康1,6, 大湖 健太郎1,7, 小田 佳奈子8, 佐藤 俊哉8, 横山 峯介8, 松下 夏樹9, 中村 雅也10, 岡野 栄之11, 崎村 建司12, 川野 仁3, 北川 裕之5 & 五十嵐 道弘1,2
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