がん細胞ではPFKFB3のメチル化修飾レベルの低下によってグルコースのペントースリン酸経路への迂回が起こる
Reduced methylation of PFKFB3 in cancer cells shunts glucose towards the pentose phosphate pathway
2014年3月17日 Nature Communications 5 : 3480 doi: 10.1038/ncomms4480
ヘムオキシゲナーゼ(HO)1/一酸化炭素(CO)はがん細胞を酸化ストレスから守るが、COに応答を示すシグナル伝達機構はまだ分かっていない。本論文では、メタボロミクスの手法を使って、フルクトース2,6-ビスリン酸(F-2,6-BP)を産生する酵素であるPFKFB3のCO感受性のメチル化が、解糖系の律速的な酵素であるホスホフルクトキナーゼ1を活性化する切り替えスイッチとして働いていることを明らかにする。ヒト白血病細胞株U937では、PFKFB3はタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ1によりR131とR134の2か所で非対称的にメチル化されている。多くのがん細胞で、ストレスによりHO-1が誘導された場合、もしくはCOが存在する場合には、PFKFB3のメチル化レベルが低下して、F-2,6-BP産生が抑制され、グルコースの代謝が解糖系からペントースリン酸経路へと移行する。PFKFB3のメチル化レベルの大幅な低下は、ヘムを含むシスタチオニンβ合成酵素(CBS)がCOによって阻害的影響を受けることに依存している。CBSは再メチル化代謝を制御しており、がん細胞ではストレスを受けるとCOによるCBSの抑制がかかり、NADPHを増加させて還元型グルタチオンを供給し、これによって酸化ストレスや抗がん剤から細胞を守る。PFKFB3のメチル化レベルが一度低下すると、このタンパク質はポリユビキチン化されてプロテアソームで分解される。これらの結果は、CO/CBSに依存するPFKFB3メチル化の制御がグルコース利用の経路選択を決定し、がん細胞が生存するための酸化ストレスに対する抵抗性を確立していることを示唆している。
山本 雄広1, 高野 直治1,2 , 石渡 恭子1,2, 大村 光代1, 長畑 善子1,2, 松浦 友美1,2, 鎌田 亜紀1, 坂本 恭子1, 中西 豪1, 久保 亜紀子1,2, 菱木 貴子1,2 & 末松 誠1,2
- 慶應義塾大学 医学部 医化学教室
- 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(ERATO) 末松ガスバイオロジープロジェクト
- 島津製作所 分析計測事業部