TLR3欠損マウスは放射線被ばくによる致死性消化管症候群を発症しない
Blockade of TLR3 protects mice from lethal radiation-induced gastrointestinal syndrome
2014年3月18日 Nature Communications 5 : 3492 doi: 10.1038/ncomms4492
高線量の電離放射線は小腸陰窩部の上皮幹細胞に重度のDNA損傷を引き起こし、消化管症候群(GIS)を発症させる。DNA損傷を受けた陰窩細胞は主に、腫瘍抑制因子であるP53によって細胞死に至る。しかし、ゲノムの安定性の維持に必須というP53の役割を考えると、P53を阻害してGISの発症を回避するという治療アプローチは実行不可能である。本論文では、自然免疫系の受容体Toll様受容体3(TLR3)がGISの発症機序に重要であることを明らかにする。 Tlr3-/-マウスにおいては放射線誘導性の陰窩細胞の細胞死が有意に減少しており、GISの発症が大幅に抑えられていた。ここで、陰窩細胞の細胞死の減少は認められたが、同マウスにおけるP53による細胞死は減少していなかった。P53によって陰窩細胞の細胞死が起こるとRNAの漏出が起こり、その結果、TLR3を介した広範囲な細胞死が引き起こされていることが明らかになった。そして、TLR3とRNAの結合を阻害する薬剤によって陰窩の細胞死が抑えられ、GISの症状に改善が見られた。従って本論文は、GISに対する新たな治療アプローチとして、TLR3活性化の阻害を提案するものである。
武村 直紀1, 川崎 拓実2,3,4, 國澤 純5,6, 佐藤 慎太郎5,7, Aayam Lamichhane5, 小檜山 康司8,9, 青枝 大貴8,9, 伊東 純一10, 水口 賢司10, Thangaraj Karuppuchamy2,3, 松永 浩太1, 宮武 昌一郎11, 森 展子12, 辻村 亨13, 佐藤 荘2,3, 熊谷 雄太郎2,3, 河合 太郎4, Daron M Standley14, 石井 健8,9, 清野 宏5,7, 審良 静男2,3 & 植松 智1
- 東京大学 医科学研究所 国際粘膜ワクチン開発研究センター 自然免疫制御分野
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