Research Abstract

細胞の長距離移動における整流的な方向検出

Rectified directional sensing in long-range cell migration

2014年11月6日 Nature Communications 5 : 5367 doi: 10.1038/ncomms6367

細胞が空間的および時間的な情報をどのように統合して移動の方向を決定しているのかについては、ほとんど分かっていない。本研究では、化学誘引物質の動的な波を微小流路で精密に再現させることで、細胞性粘菌(Dictyostelium)の一方向的な移動と、細胞先端部における低分子GTPアーゼRasの活性化が、化学誘引物質濃度が時間とともに低下するときに、抑制されることを示す。方向検出に関するこの「整流作用」は、波の速度が中間的な範囲でのみ起こり、PI3キナーゼやF-アクチンを必要としなかった。モデル解析から、単層のインコヒーレントフィードフォワード回路がゼロ次の超感度性を持つと、整流作用が自然に生じることが明らかになった。必要とされる刺激の時間窓から、方向検出に関する5秒程度の過渡的な応答が予想され、ここからRasの活性化に近いこと、また、抑制因子の拡散性は典型的な細胞質中のタンパク質程度であることが予想される。細胞性粘菌が波の前面においてのみ移動できることは、適応応答の整流作用と、それが局所的な活性化と広域的な抑制に組み合わされていることに密接に関連していると考えられる。

中島 昭彦1,2, 石原 秀至1,2,3, 井元 大輔1 & 澤井 哲1,2,4

  1. 東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 相関基礎科学系
  2. 東京大学 複雑系生命システム研究センター
  3. 明治大学 理工学部 物理学科
  4. 科学技術振興機構 さきがけ

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