シャミセンガイのゲノムから、腕足動物の進化やリン酸塩を用いた生体鉱物化作用に関する手掛かりが得られる
The Lingula genome provides insights into brachiopod evolution and the origin of phosphate biomineralization
2015年9月18日 Nature Communications 6 : 8301 doi: 10.1038/ncomms9301
腕足動物のシャミセンガイとそのリン酸カルシウムでできた殻の進化的起源については、まだよく分かっていない。今回我々は、ミドリシャミセンガイ(Lingula anatina)の4億2500万塩基対のゲノムを解読し、腕足動物の進化に関する手掛かりをいくつか得た。包括的なゲノム系統解析から、シャミセンガイは軟体動物に近縁だが、環形動物からは離れていることが明らかになった。シャミセンガイの遺伝子数は約3万4000個とかなり多く、これは複数の遺伝子ファミリーが大幅に拡大したことによっている。シャミセンガイは脊椎動物と一見似た硬部組織成分を持っているが、今回のゲノムやトランスクリプトーム、プロテオームの解析から、脊椎動物の骨形成に関与する遺伝子群はないことが明らかになり、シャミセンガイのリン酸塩系の生体鉱物は独自の起源を持つことが示唆された。シャミセンガイの殻形成に関与するいくつかの遺伝子は軟体動物と共有されている。しかしシャミセンガイは、EGFドメインを持つ殻基質コラーゲンを作るようなドメイン構成を独自に獲得しており、系統特異的な殻基質タンパク質を作っている。シャミセンガイの独特な生体鉱物化作用(バイオミネラリゼーション)の背景には、遺伝子ファミリーの拡大、ドメインのシャッフリング、および遺伝子の転用といったゲノムレベルの事象があると思われる。今回得られたシャミセンガイのゲノムデータは、冠輪動物の進化をさらに研究するための情報資源となる。
Yi-Jyun Luo, Takeshi Takeuchi, Ryo Koyanagi, Lixy Yamada, Miyuki Kanda, Mariia Khalturina, Manabu Fujie, Shin-ichi Yamasaki, Kazuyoshi Endo & Noriyuki Satoh