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ウィズコロナの図書館運営
─大学の国際化、これまでとこれから
コロナ禍によって国をまたいだ人の往来が制限を受けるようになり、大学の国際教育は大きな打撃を受けている。現代において、国際化は大学に必須の要件であるが、今後はそれをどのように進めるべきか。シュプリンガー・ネイチャーは、図書館員をはじめ大学関係者がこの問題にアプローチするためのセミナーを2020年9月17、30日にオンライン開催した。
COVID-19により、海外への留学を中止したり延期したりせざるを得ない学生が多い。さぞ落胆していることだろう。留学を卒業の要件にしている大学や学部もあり、そこでは問題はより深刻だ。
このような中、「ウィズコロナの図書館運営─大学の国際化、これまでとこれから」と題するシュプリンガー・ネイチャーのオンラインセミナーが開かれた。講師は、一橋大学全学共通教育センター教授の太田浩氏。セミナータイトルは「図書館運営」だが、それに直接言及するというよりも、関連して広く大学関係者が知っておくべき基本的な内容が、豊富な資料とともに解説された。グローバルな人材の育成に向けて、大学の国際化の「これまで」を扱ったパート1と、「これから」を扱ったパート2で構成されており、どちらも、Web(go.sn.pub/snnd2101a)から無料で視聴可能である。国際教育に興味のある方は、ぜひアクセスしてみることをお勧めする。
海外への移動を伴わない国際教育
大学で行われる国際教育では、従来、留学が重要な地位を占めてきた。だが今後については、ICT(情報通信技術)を活用した「別な形」の国際教育を取り込むことが重要であると、太田氏は指摘している。海外への移動を伴わない教育の形態には、例えば、オンライン留学(あるいはバーチャル留学)や、COIL(Collaborative Online International Learning:オンライン国際協働学習)などがある。COILというのは、国境を越えた教員間の連携の下、オンラインでの学生同士の交流と協働学習を行うものだ(詳しくは、「Society 5.0時代の国際教育を見据えて―海外大学と連携して行うオンライン協働学習(COIL)とは」go.sn.pub/snnd2101b参照)。
ICTを活用した方法の重要性は、欧米ではコロナ禍以前から指摘されていた。人の国際的な移動は環境に対する負荷が大きいというのがその理由だ。また費用の点からも、ICTを活用する方法であれば、希望する学生はおよそ誰でも参加が可能になるだろう。太田氏は、例えばCOIL型の学習を実際の留学の前後に挟むといったように、人の移動を伴う留学とICTを利用した方法を融合させることが、コロナ禍後も重要であると強調した。
このような融合型の手法は、特に短期留学での学習効果を高めるのに有効だろう。日本では若者が留学を希望しなくなったといわれる一方で、政府の留学支援制度により、留学する学生数が増えたというデータもある。実は、大きく増えたのは短期留学であって、特に1カ月未満のものだ。しかし、企業から見ると語学力、異文化理解力、多様な価値観の受容能力の育成には、最低でも6カ月間の留学が必要という調査結果が、総務省が行った「グローバル人材育成の推進に関する政策評価」で示されている。「『海外で勉強した』というだけの留学から、今後は、学習の成果を示すことが大学に求められるのです」(太田氏)。そのとき、ICTを活用して、留学成果を拡充することが可能になってくるわけだ。
国際教育の専門家が求められている
セミナーには、オーストラリアにあるモナシュカレッジで短期留学プログラムを担当している櫻木真由美氏がオンラインで参加した。オーストラリアでは留学生の受け入れを重要な収入源としている大学が多く、同大学もその1つだ。2020年に急遽、オンラインでのバーチャル留学の準備・実施に当たった櫻木氏は、そのときの経験を紹介してくれた。学生参加型のオンライン授業がうまくいった背景には、ICTを活用した教育システムに関するスキルやインフラが同大学には以前から備わっていたことが大きかったという。
一方、「その点が、日本の大学では弱い」と太田氏は指摘する。特に、ICTを活用する教育には、それに適した教授法や学習管理法などがあり、教師がそうしたスキルを学ぶことが大切である。しかし、それが日本では遅れているというのだ。また、そもそも日本の大学では国際教育やICTの専門家が不足していると付け加えた。その上で、国際教育をカリキュラムとして整備し、そのカリキュラムに留学も含めることが重要とのことだ。
日本では、政府による大学の国際化や、国際学生交流を支援する競争的資金事業が実施されてきた。しかし、いわゆる選択と集中の弊害として、恩恵を受けられるのは一部の大学のみであり、「一般の大学はこれら支援事業に申請するのさえも難しい」(太田氏)。では、限られた予算の中で大学の国際教育を進めるには、どうしたらよいのだろう。この問いへの足掛かりとして、他大学や組織と連携して国際教育のためのリソースを共有するアイデアなどが提示された。また、優れた取り組みの参考事例となり得る大学も紹介され、実り多いセミナーとなった。こうしてグローバル化した学生が社会に羽ばたくとき、大学や企業が彼らをいかに受け止め、活躍の場を提供できるかも、合わせて注目されるところだろう。
文:藤川良子(サイエンスライター)
太田 浩 氏
*シュプリンガー・ネイチャー(日本)の全イベントレポートは下記からアクセスいただけます。
go.sn.pub/snnd2101c