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オルガノイド:統合的マウスモデルにおける早期のTP53変異は、環境曝露による胃の前がん病変の促進をもたらす
Nature Genetics 52, 2 doi: 10.1038/s41588-019-0574-9
がん遺伝子の体細胞変異は、正常組織や前がん組織においても検出されるようになってきたため、疾患表現型を可能にする遺伝子と環境の相互作用に対する注目が高まっている。今回我々は、初期の遺伝学的変化と疾患に関連する曝露とを組み合わせて、胃の前がん病変を研究するための統合的マウスモデルを開発した。発がん物質を摂食させたマウスで胃の細胞のTrp53を欠失させると、細胞が選択的優位性を獲得し、異形成の発生を促進させた。異形成病変からのオルガノイド作製により、胃の前がん病変のゲノム、転写、機能の評価を行うことができた。胃の前がん病変では、p53の不活性化によって細胞周期調節因子(その中でも特にCdkn2a)の発現が上昇しており、Cdkn2aは、がんのプログレッションを阻む障壁として利用できることが分かった。異形成胃オルガノイドでCdkn2aとTrp53を共に欠失させると、がん表現型が促進されたが、同時に複製ストレスも誘導され、DNA損傷応答抑制因子に対する感受性が生じた。これらの知見は、疾患に関連する曝露とゲノム変異を統合したマウスモデルの有用性を実証し、前がん状態を作り出す上で、遺伝子と環境との間の相互作用が重要であることを浮き彫りにしている。