Perspective
がん:がんで観察されるAPOBEC3依存性変異誘発を阻害することの利益に関する論考
Nature Genetics 54, 11 doi: 10.1038/s41588-022-01196-8
APOBEC3(apolipoprotein B mRNA-editing enzyme catalytic polypeptide-like 3)のシトシンデアミナーゼ活性がもたらす変異シグネチャーが、ある種の治療抵抗性腫瘍や転移性腫瘍を含む半数以上のがん種に見つかっている。APOBEC3が好む塩基配列にドライバー変異が生じ得るので、APOBEC3酵素による変異誘発が、がんの進化の原動力となっている可能性が示唆される。APOBEC3による変異シグネチャーは、サブクローナルながん細胞の系統に検出されることが多く、がん細胞株において長期間をかけて獲得される。このことは、APOBEC3による変異誘発が、がんにおいて持続し得ることを示している。こうした知見から、APOBEC3による変異誘発は、それを阻害することで腫瘍の不均一性、転移、薬剤耐性を抑制できる、疾患修飾プロセスであると提唱されている。しかしながら、がんや正常組織におけるAPOBEC3の生物学のいくつかの重要な側面はいまだはっきり解明されていないため、さまざまな状況のがんにおいてAPOBEC3による変異誘発を阻害することの利益について、根拠を持って予測することは難しい。本稿では、がんにおいてAPOBEC3による変異誘発を阻害することが臨床的利益をもたらすかどうかを検討する目的で、関連する機構上の不明点とそれを解決するための戦略について議論する。